日本すげえって誰がいってるのかな

外人が日本人を特別視してるってのは、自分の国の歴史少しでも知ってたら誰でも分かるだろ。

はてな匿名ダイアリー:無題

細かい事象についてはすでにid:wiselerさんが駁論(って書くとディベートみたいだね)を試みている(http://d.hatena.ne.jp/wiseler/20081207/p1)ので、このエントリでは触れない。もっと根本的と思われることを指摘したい。

いや、たいていの「外人」は日本を特別視なんかしてないだろう。特別視できるほど彼らは日本を知らない。普通の「外人」は日本企業製品は知ってるけど日本は知らない(そうして最近は日本企業も海外工場が多いから、人によってはそれを自国企業だと信じている人がいる――北米を走っている Honda の車は Made in USA だ、以下略)。天皇がいることはうっすら知っていながら、同時にアソウは大統領だと思っている人はざらにいる。

「外人」は日本がどこにあるかも知らない。中国とごっちゃになってるのはいいほうで、島国だということをかろうじて知っているがフィリピンあたりと位置がごっちゃになっていて、なんだかトロピカルな国だというイメージをもっていたりする場合もある(沖縄かなにかとフィリピンが混ざったに違いない)。そのくらい、日本は知られていない。博士号もっているようないわゆる教養階級の人でも時にそうなのである。

知らないものは特別視しようがないです。知らないのだから。

日本を知っている人が一番多いのはアメリカ合衆国かもしれない。もっとも彼らの知っている日本は多くベースの中、ヨコスカやミサワやアツギだったりするので、日本一般についての認識はゆがんでいる可能性はある。最近はJETで来ているアメリカ人やカナダ人なども増えてきているので、この分野でのアメリカ人の優位は昔ほどではないかもしれない。

しかしがっかりすることはない。日本人だって外国のことをよく知っているわけではない。相身互いである。わたしはむかし非常勤で欧米文化史というものを教えていた。10年前のことだ。講義の初回には、毎回紙を一枚配って、世界地図を描かせ、主要都市をいくつかプロットしてもらった。するとなかなか素晴らしい地図がいろいろ出て、本人の承諾を得ていないので画像はお見せできないが、インドネシアがないのはデフォルト、オーストラリアはあってもパプア・ニューギニアニュージーランドは忘れられる傾向にあり、インド亜大陸アラビア半島がなんか妙な形に融合しているのはまだよいほうで、豪快にアフリカ大陸がすっぽり忘れられている地図などもあった。

すでにサッカーがじんわり人気を得ていた頃と記憶しており、比較的ヨーロッパが細かく描かれていたのはよいのだが、そこでもスカンディナヴィア半島は圧倒的な頻度で忘れられ、イベリア半島は半島としてではなくだらしなくフランスに続く肉塊のように描かれるのが通例であり、バルカン半島アナトリア半島は登場せず、ということは黒海もたいていの場合はその存在を抹消されているのであった。カスピ海については語る必要はないであろう。そのくせイタリア半島と地中海はほぼ忘れられることはなく、あれは「地中海」という分かりやすい日本語訳名称と「イタリアは長靴の形」というキャッチーなフレーズが小学校くらいから教えられる賜物かと思われる。

ヨーロッパがこんなだから、アメリカが二等辺三角形ふたつくらいに描かれるのはだいぶ筋がよいようだというのはお察しいただけるだろう。パナマ地峡(運河)が多くの場合忘れられて、しどけないこんにゃくのような米州大陸が描かれ、そうしてそれほど多くはないが、ロサンゼルスとニューヨークの場所を入れ違って覚えている学生も多少はおり、だから本来シカゴがあるあたりにニューヨークがあると信じていた学生がいても、もうその頃には驚くだけの気力もこちらには残っていない。繰り返すが、これが日本の大学生(少なくともある四年制大学の一年生)の地理的認識なのであった。それから学力が大幅に向上したとは聞いていないので、いま同じ調査をしても大差はないだろうと漠然と予想する。

日本人の世界認識がそうであってみれば、外国人が日本について曖昧模糊としたイメージしかもってなくても、さほど驚くことではないと思う。イメージを形成するに必要な情報が圧倒的に足りないのだ――お互いに。日本の新聞には世界各地のニュースはせいぜい見開き一面くらいにしか載ることがない。同じことが世界各地のメディアにおける日本の扱いにも言えて、例えばわたしが二ヶ月ドイツにいて覚えている新聞の日本関連ニュースは、台風と北朝鮮拉致問題と(「めぐみ」というドキュメンタリー映画の紹介だった)、ノーベル賞受賞発表くらいであった。それだけの情報しかない国に、人がなにかしらまとまったイメージをもちうることのほうが奇跡である。そうしてドイツ人であれば「ハイジ」は知っているわけで、ほかにも各種の日本製品が知られていて(「シザイド」(Shiseido)は高級ブランドとして知られ、基礎化粧品がものすごい値段になって売られていた)、悪いイメージをもたれているようには思えなかったが、しかし何か特別な感情が沸くほど知られているわけではないのは明らかに思えた。*1

だけどそれでいいではないか、と醒めた気持ちで私は思う。日本人一般はとくに外国に興味があるわけではないように思える。メディアだけでなく、ブログエントリをみても、日本国内にる人たちの書くブログに出てくる外国はせいぜい近隣諸国か米国か、たまに英国やオーストラリアといったところ。だとしたら、「外人」一般が日本についてまるで知らなくても、おあいこというものだ。片務的な関係は長続きしない。そうでないとしたら――「外人」の日本認識にこだわる人たちは諸外国について何を知っているのか、わたしはむしろそのことに興味をもつ。

追記:はてなブックマークのコメントで教えていただいたサイト。2005年の編集だが事情はやはりあまり変わらないらしい。ただしこちらは国際版のようである。日本人だけの地理認識に基づいているわけではない。

関連エントリ:

*1:もっともドイツ人がドイツに関しては何でも詳しいのかというと、そういうわけではなくて、たとえばわたしの専門である近世ドイツ思想史について、語学教室のクラスで一番詳しかったのは、ゲルマニストである語学教師ではなくわたしであったので、教材に出てくる哲学者の名前などを解説するのはいつしかわたしの担当になっていた。まあ専門性というものはそういうものなのかもしれない。わたしだって日本史についての知識は正直怪しいものだ。