TORG はなぜ消えたか

昨日のエントリを書くために、あちこちの RPG系 blog をみると気になる記事がありました。回転翼さんという方の blog です。

それにしても、『TORG』は僕ら70年代半ばの『RPGマガジン』育ちの世代にとって黒船級のゲームでありましたが、後が続かなかったという感があります。翻訳ゲームですし、シリーズとして物語が完結してしまったというのもありますけど、あれほど影響力のあったゲームでありながら、その後のTRPG業界に痕跡を残さなかったのは不思議です。

RPGコラム 『うがつもの』-- なぜTORGは後が続かなかったのだろう…

TORGは魅力的なシステムでしたが――現実世界をほどよく反映した近未来架空世界・マルチジャンルなので多彩な背景世界とPCのアーキタイプ・対数表示による扱いやすく統一感のある行為判定・魅力的なNPCとシナリオ・カードを用いた柔軟なロールプレイ支援。無限上方ロール*1なのでパワープレイが好きな人にも対応でき、またカードを用いて適度に戦略性のある戦闘等行動解決が可能です。ねえ、なんで廃れたんでしょうね。

といいつつ、自分としてはしょうがなかったかなと思います。まず、サポートが弱すぎた。国内では不幸にしてサプリメントやシナリオの供給が続かなかったのですが、実は翻訳が始まったとき、版元である West End Games (WEG) はもう TORG を切りにかかってました。今からだとそれが分かる。私が TORG を始めたのは比較的遅く、1995年ごろからなのですが、英語版ウィキペディアの"TORG"によるとこの時期はすでにアメリカ市場ではTORGが売れなくなっている時期だったそうです。一般ユーザが離れ一部の熱狂的なファンだけが細々と秘教的に遊んでいる、そういう時期に日本に入ってきて、なのでいつか終わることが実はもう眼に見えている状況で日本に TORG は持ち込まれたといえる。WEG は Infiniverse というサポート誌を出してましたが、これは私たちが日本で遊び始めたころには事実上の休刊状態にありました。WEG はまた d20 という*2汎用システムの開発に乗り出していて、当時もうあまり TORG のサポートに熱心ではなくなってきていました。サポートのなされなくなったゲームは、大きな流れとしては続かないというのが RPG の歴史の教えるところです*3。まあ日本では雑誌による定期サポートもそもそもなかったわけなのだが*4

そして一番目と矛盾するようですが、サプリメントを沢山買わないと出来ないようになっていた。ルールが膨大だった、それが一般ユーザを完全には掴みきれなかった理由だと英語版ウィキペディアはほのめかしています。これは Infiniverse という TORG 独自の世界観にも一部は由来するのですが、基本ルールだけでは遊べないようなシステムだった。近未来でありながらタイムラインは当時の――つまり冷戦体制が崩壊していくときの――国際政治をなぞっていくという世界設定もあり、WEG から出るさまざまなサプリメントを買わないと提供されるサポートについていけなかった*5。そしてそもそも、基本ルールでの世界設定がとても粗いこともあり、世界設定ルールを説明する6つのサプリメントはなんかデフォルトで買わないとどうも楽しく遊べないようになっていた。そしてだから一通りそろえるだけでお金がかかった。それは一部マニアのみを対象とする閉塞への道に他ならない。

そして、その膨大なサプリメントからなるシステムの設計が悪かった。グランドデザインは優れていると私はいまでも思いますが、細部に矛盾が多い。これは TORG の世界設定ルールが後から出されてきて、基本ルールとの矛盾があったり、あとから付け足される世界設定ルール同士の矛盾があったり、という話と、個々のルールの記述が十分に練られていなくて解釈がゆれる、という問題の大きく二つに分かれます。私などは torg-ml で質問し倒して解決していましたが、逆に言うと英語のルールを見ながらやっていても、Internet 上のリソースを使い倒す熱狂的なファンでなければ遊べないくらい、TORG というのは読みにくいルールであったといえる。そして1995年というのはたとえ米国であっても、USENET/Internet というのは基本的に機関に所属している人が使う媒体でした。層が限られる。まあ一部の方は Genie という GE がやっていた BBS などでも情報を得ていたようですが、そして RPG をプレイする人はネットワークを使う人とだいぶ重なっていたようではあるのですが*6、どちらにしても米国人にとってすら敷居のやや高いプレイヤーコミュニティが出来上がっていたようではあります。

ただ、逆に、TORG のタイムラインをまったく気にしなくていいのなら――ということはサーコルドもやってこないしインフィニバース・アップデートもないということですが――、旧版TORGの翻訳(以下『トーグ』と呼ぶ。)で十分楽しく遊べるのじゃないかとも思います。現に1998, 9年ごろ、日本はまさにそういう状況にあったのですがそれでも『トーグ』を遊ぶプレイヤーは一杯いました。なので上で書いたことは、日本で『トーグ』が廃れたことの説明では実はありません。まあ米国でのサポートが終わったあとも続くというのは難しすぎるとは思うのですが。

仮に、私個人には嬉しくない状況とはいえ、日本独自展開で*7シナリオを出すなど出来ていたらまた違ったのかもしれません。WEG がそれを許したかどうかは別です。当時『トーグ』を遊んでいたのはお約束を遊ぶのが好きな人とある程度重なっていたようにも記憶し、いまはやっているらしい「ロールプレイ重視」の傾向とある意味で親和性の高いシステムとして捉えられていたようにも思います。絶版になっている*8いまでも中古市場で需要があるというのは少し分かる気がします。もっとも個人的には Jim Ogre がやった TORG21.5*9を買ってあげてほしい気はするんですけどね。;-)

ただ、日本の状況はあまり顧慮せずに書いているといっても、TORG が後に影響を及ぼさなかったというのは日本だけの現象ではなく、根幹には上に挙げたこともあるのだろうと思います。つまり、決して遊び勝手のいいゲームじゃなかった*10、だから廃れた。英語版ウィキペディアでははっきり「商業的に失敗した」と書かれています。そういうゲームのユーザはやはり絶対数が少なくて、そこから学ぼうとする人はおそらくさらに少ないだろう。ごく最近の状況を私は知らないのですが、少なくとも 2005年までの TORG-ML の議論では TORG の設計思想を継いだといわれるゲームは、日本のみでなく米国や他の国でもなかったように思います*11。結局 TORG はある時期に出現した魅力的なしかし RPG の大きな流れの中では仇花に終わったシステムということになるのかもしれません。システムとしての TORG は野心的ではあったけれど、やや早すぎたということなのでしょうか、時代的にも、*12そしてその時代であってすら、市場に出すにはやや成熟しきれていないところがあった、そんなところなのではないのかなあ。

しかしまた TORG やりたくなってきたな。誰か立ててくれないかな*13

*1:20が出ると振り足し、カードとある種のヒーローポイント(poss.)を用いたブーストが可能。

*2:WoTC の d20 とは異なる。

*3:誰だねそこで Petal Throne とかいってるのは。

*4:邦訳は山北篤、つまりFEARが翻訳して新紀元社から出していたが、当時は FEAR 製品のサポート誌は存在しなかった。

*5:買わなければいいじゃんという声はあるでしょうが、しかしそうなると市販シナリオも使えなくなるので、買わざるを得ない。

*6:要するに geek なのです。

*7:というのは Land Below や Space Gods はともかく Tharkold が出てないのならそうならざるをえないわけだ。

*8:というのも今回ネットをみていてはじめて知りました。20世紀は遠いなあ。

*9:ネットでさくっと調べたら1.5らしい。torg-ml で15年間行われた議論の精髄が反映されている、はずなので、上で挙げた欠点はだいぶ改善されているはずではある。

*10:RQは、とそこで私は自問するのだが、RQは公式非公式のサポートがあるので状況がぜんぜん違うよねとも思います。

*11:『深淵』には影響があるのかもしれない。が、時期的に MtG の影響などをより重視したほうがいいようにも思う。

*12:たとえば、Infiniverse はネットを使うともっと楽に展開できたのではないかと私は想像します。2000年に雑誌 Infiniverse の権利を買った会社がありましたが、これ1号だけ出て後が続かなかった。いま考えると、当時、すでに電子媒体でやってもよかったように思うのですが、そういう時代とややあっていないところが最後まで TORG には残りましたね。

*13:私は、ええとそのう、カードデッキがどこにあるかわかんないんですよね。。