Wikipedia は未成年が嫌い?

ちょっと考え込んでしまった。

Wikipediaでは未成年はどんな扱い?
ネット上では子どもは嫌われるけど(ニコ動除く)、Wikipediaも例外ではない。大人の俺でも読むのが非常に面倒な注意書きだが、こんなの子どもが読むと思う?。で、「はっきり言いますと、年少者には、ウィキペディアで活動して認められるチャンスはあまりありません。」なんて宣言してる。

Wikipediaの編集は難しい

これなんでか知らないが、日本語版はそうなんだよね。

ウィキペディア一般を取ってみれば、そんなことはない。換言すれば、「はっきり言いますと、年少者には、ウィキペディアで活動して認められるチャンスはあまりありません。」というのはウィキメディアのメインストリームの文化ではない。ウィキペディア日本語版に特異な思想で、そして個人的には彼らが克服すべき課題のひとつだと思っている*1

そこで言及されている方針文書 http://is.gd/jTZK には私はまったく関与していない。あるいはすでにブロックされていたかもしれず*2。なので経緯を詳しく知っているわけではないのだが、もちろんそういう文書が作られるまでには、それなりの背景があった。まあ困ったお子様が多いということ。何人かの対処に私も関与したので、それに手を焼く人がいるのも理解できる。だけれど異物がいくらか水面に浮いていたからといって、盥ごとひっくり返すのがよいことだとは到底思えない。

年少者、未成年者にも有能で誠実な人たちはいくらでもいる。もちろん彼らには経験の不足から来る欠点はあるけれど、逆に若さがもたらすエネルギーや邪気のなさといった長所ももっている。それはわれわれ年経りしものにはもはや遠いものだ。私がそういうのは、ウィキメディア・プロジェクトでいろいろな若い人たちとの協力を楽しんできたからで、そうして未成年者であるかどうかは日本語以外のプロジェクトでは基本的に重視されない*3。英語版でもドイツ語版でも未成年どころか中学生の管理者*4でもウィキメディア・プロジェクト全体をみれば珍しくない。

管理者よりもっと大きな責任を持たされた例もいくつかある。例をあげておこう。

  • Leon Weber、ウィキペディア独語版の管理者、現在は高校生か。ともかくギムナジウムに在学中で、12歳のときドイツ語版の管理者になった。プロジェクト内では主にドイツ語の問い合わせメールの対応をしている。おかげで、あるときメール担当にも年齢制限をいれようと誰かが言い出したとき、Michael と Leon をやめさせろということかと、ドイツ語版のウィキメディア関係者の主だった連中は動転して激しい抗議を行い、事実上撤回させた。
  • Sean Whitton、イギリスの高校生。今年最終学年のはず。大学資格試験のためにここ2年忙しく、活動量が減ってきているが、以前は Michael Bimmler がいまやっている財団へのマスコミメールの対応を Sean がやっていた。Sean の仕事ぶりを少し詳しく説明しておくと、簡単に返事できることはその場で Sean が返事をし、やや微妙な案件は広報委員会に回して確認を取り、あるいは財団の職員に代わり、そうして自分で返事をした分についてもどこから取材・問い合わせがきたかというレポートを広報委員会宛で定期的に送ってくるということをやってくれていた。ウィキメディア財団の取材対応の一画を担っていたのは、当時まだ16歳の高校生だったのだ。もちろんウィキペディア英語版などの管理者でもある。
  • Casey Brown、アメリカの高校生、かな。もう15歳になったはず。はじめて彼とやりとりしたときには、ちょいとした議論になり、そのときは彼を20歳かそこらと思ってたので「なにその子どもじみた言い草は」とこちらも頭に血が上りかけた事があったのだが、あとで聞いたらそのとき御年14歳ということで、これには何とも言葉を失った。もっとも私だけではなく、彼を成人だと思う人は多いらしい。最初はそういう不穏な出だしではあったのだが、幸運にもわたしたちは急速に仲良くなり、というか Casey がいろいろと積極的に私の手伝いをしてくれて、おかげでどれだけ助けられたかしれない。アメリカ人としては稀有なことに、多言語文化への強い尊敬が Casey にはあって、それで翻訳関係の手伝いをとてもよくしてくれている。というより、最近ようやく広報委員会への Casey の昇任が認められ、またこの前の寄付キャンペーンの実際の切り回しはボランティア側では Casey が中心になって行ったので、いまは名実ともに彼がウィキメディア・プロジェクトの内部文書の翻訳のコーディネートを担っているといってよい。これは上の Michael や Sean にもいえることだが、広報委員会に入るということは、発表前のプレスリリースなどを見る機会もあるということで、それだけボランティアと財団職員の両方から信頼されているということである。

翻って、もう一度最初の引用に戻る。「ネット上では子どもは嫌われるけど(ニコ動除く)、Wikipediaも例外ではない。」ウィキペディア日本語版では確かにそうであろう。だが、ウィキペディアのどこでもそうなのではない。むしろ日本語版が例外なのだ。ここははっきりと「ウィキペディア日本語版では」と限定するべき場面だった*6。英語版でも、ドイツ語版でも、その他のいくつかの言語版でも未成年の管理者やボランティアスタッフは珍しくない。上に挙げた4人ばかりではなく、たくさんの少年や少女たちが、ウィキへの記事の投稿や細部のメンテナンス、広報やサーバ管理やさまざまなプロジェクトの活動を支えている。

どうして、ウィキペディア日本語版では未成年は嫌われるのですかね。

関連エントリ:

*1:歴史的な経緯で、わたしはウィキペディア日本語版とあまりよい関係にあるとはいいがたい。そのことは私の視点に無意識に影響している可能性があることを付言している。関連エントリも参照。

*2:2007年9月。なお私の側の見解は「ウィキペディア日本語版と私 - 鰤端末鉄野菜 Brittys Wake」で詳述した。

*3:法的責任が追及されうる一部の役割には、年齢制限がある。18歳以上かつ当該ユーザの居住国の法律での成人年齢に達していることが条件になる。

*4:ウィキの管理者であってサーバの管理者ではない。とはいえサーバの管理者になるにもとくに年齢制限はない。シェルアクセスをもっている未成年のユーザは過去に例がある。

*5:もっともウィキメディア・スイスの理事長は「同等者のうちの第一人者」なので他の理事に比べて特別な権限をもたない。

*6:このことについては以前述べた。「いったいどこの話だよそりゃ(加筆アリ - 鰤端末鉄野菜 Brittys Wake」を参照。