お見合い小母さん

お見合いをしたことがある。いや、したことがあるというとおかしいか。仲人役をしたことがある。私の夫は工学系の出身で、一般に工学系は男性過多ということになっているので、夫の知人を紹介してくれないかという依頼が来るわけである。で、いまから考えると最初から連絡先を渡して若い二人だけで落ち合ってもらえばよさそうなものだが、当時は最初の1回は一緒についていった。仲人役といっても、むしろ年齢では若いお二人のほうにこちらは近いので、お若い方たちが出て行ったあとの親御さんとの会話は微妙に窮屈であったのを覚えている。

id:aureliano さんの0014「お見合いおばさんの復権」を見て、そういう昔のことを思い出した。ブックマークのいろいろなコメントをおもしろくよんだ。

お見合い小母さんを介して見合いをするということのわずらわしさが嫌われたので、企業の結婚相談システムがはやり、また恋愛結婚が増えたという面があえてか考慮されていないように感じる。私は早くに親元を離れて遠方の大学にいったので、お見合い小母さんが来て困るということはなかった――学部の指導教官によると「大学院にいく人に、お見合いの話なんか来ないよ」だそうで、実際そのとおりだった。だが、そういう共同体的なものがわずらわしいという話は想像の範疇ではあるが、わかる気はする。

その上で感じたのは、これを書いた方は、お見合いおばさんが介在するかどうかに関わらず、お見合いというのをたぶんしたことがないんだろうなということである。外れていたらご愛嬌。だがお見合いというものも、お見合い小母さんというのも、この人が考えているような気軽で使いやすいシステムではない――ということがブクマコメントでもあまりいわれていないのが気になった。

まず、お見合い小母さんは無償奉仕ではない。かなりのお見合い小母さんは仲人として留袖着る回数を増やしたいからお見合いの世話をするのだという冗談があって、もちろん別の人を名目上仲人にするということは可能だろうが*1、いずれにしても謝礼は必要である。それも一度ではなく、見合いを頼んだその年から、お歳暮お中元は当然である。ということになっているらしい。結婚したあとも続くことはいうまでもない。

それからお見合いでは男性には選択権がない。「最近では断れない」という話があったが、もともとそういうものらしい。もっとも、それはあくまでも建前としてであって、仲人さんが女性側に因果を含めて、ということは起こりえるが、形式上はあれは男性は断らないことになっている*2。これは案外に面倒くさいと思うのだがどうだろうか。

それから釣書をお見合い小母さんに渡した時点で、自分の個人情報は駄々漏れになる。住所経歴家族構成は知らず、親の職業役職名、なんかが知れるわけである。いまの若い人びとが、そういう情報開示を赤の他人にするわずらわしさに耐ええるのだろうか。この辺も疑問である。それもごく自分の身近にいて、しかもたいていの場合は、そういうことがなければそんなこと知らないくらいの仲だった誰かに対して。

もちろん、いまでもどこかにお見合い小母さんはいるのだろう。だが何かが廃れるとすれば、それには廃れるだけの理由があるのだと思っている。

そして、たとえお見合い小母さんが、自分では相手を見つけることのできない人の結婚相手探しに貢献できるのだとしても――もてないことに絶望してそこに活路を見出そうとするほどの人が、お見合いで一度あっただけの人から断られる、場合によっては連続して断られることに、はたして耐ええるのであろうか。

*1:とくに会社勤めしている人などで上司を仲人にしたいというのは聞こえがよい。

*2:もっともお見合いおばさんを必要とする男性が、それをいとわないほどに結婚したいのであれば、このことは問題ではないかもしれない。