図書館システムと技術者の自由

id:mohnoさんからid:Britty:20101006:p2へコメントをいただき、考えていたことがいくつかあります。たとえばここ。

本題については、大屋氏の認識がそうだとしたら、同様のプログラムを動かすことが引き続き問題とされかねないわけで、“技術者の安心”のために声を上げ続けないといけないことになりますね。

「藪の中」『鰤端末鉄野菜』へのid:mohnoさんコメント

便宜のため「大屋氏の認識がそう」だとして、話を続けます*1。技術者にとって安心できる環境が大事だというのは同意です。クラックでもない技術的にはごく常識的な(そりゃベストプラクティスではないにしても)ツールを動かして、いちいち逮捕されたのじゃたまらないでしょう。そして「声を上げ続けないといけない」というのもそのとおりでしょう。安全とそして自由を己の努力によって購うというのは、自己規定の可能という自由の定義からしても穏当なことに思われる。とはいえ、「声を上げる」というのはいかなる事態なのか。というか技術者はそこで何を発言していけばいいのか。

「同様のプログラムを動かす」場合におこりえることどもとその技術的な背景について一般人や司法関係者の理解を高める、というのはひとつの方策で、ブログなどで #librahack 関連の発言をしておられる方にはいまのところこの方向を取っておられる方が多いように思います。当該システムの設計やベンダーをその対応を含めて批判する方もいます。しかしだ、そういうタコいシステムを納入しているのは果たしてそこだけなのか、という可能性を考えると、一私企業の一商品を延々批判するというのはどれだけ効率的なんだろうと私は思います。ことにそれが個人の属人的な努力である場合には。

そこで少なくとも他の二つの可能性があるように思います。ひとつはなんらか団体なりを作って、技術者から非技術者への広報・アウトリーチ活動・その他いろいろをしていくという方向、もうひとつは「同様のプログラムを動かす」ことを抑制していく方向へ転換するというのはいかがでしょうか。いやクローラじゃなくて、元の図書館のシステムという意味でね。

「おおやにき」へのコメントでちらと触れたのですが(「図書館の中のシステムについて十分な情報がない個人にベストプラクティスを求めるのは無理なんじゃないだろうか」)、システムがブラックボックスだったことも今回の事件に至った要因ではないかと思うのです。だったら、システムの仕様が公開されていたらどうでしょう? それに対応できるツールを作るなり、パッチを提案するなり、できたんじゃないだろうか。何寝言いってるんだと思われるかもしれませんが、オープンソースな図書館管理システムというのは存在していて(http://www.next-l.jp/)、しかも一部(検索システム)は国立国会図書館へ導入されている、そうです。国立国会図書館http://iss.ndl.go.jp/)のウェブサイト自体からそれは直接確認できませんでしたが、かわりに現在の検索システムの少なくともプロトタイプは「OSSのみで構築。」という文言を得ました国立国会図書館へ導入実績があるのでしたら、官公庁では無理、ということではないだろうと思います。もちろん設計にオープンソースを使っただけでは十分ではなくて、ソースを公開してほしい、成果をコミュニティに還元してほしいわけですが、それは次の段階の話かとも思います。2010-10-12追記:ブックマークコメントに「せめてAPIを公開してほしい」という趣旨のものがありました。同感です。公共図書館大学図書館などはぜひそうしてほしいものだと思います。法制化してもいいくらいじゃない?

アドヴォケート活動、政治活動には事情あってかかわれない、自分はあくまでも技術者としてまた個人として活動したいという向きには、Next-Lのようなオープンソースの図書館システムプロジェクトへ貢献するという形で、「声を上げ続ける」道もあるのかなと思いました。

*1:なおここでmohnoさんが問題にしているのは、大屋氏の一連のブログエントリ、とりわけ岡崎図書館事件は誤認逮捕と呼べるかどうかについてのコメント欄発言かと推測する。