関西の飛行場

 橋下知事は「年間35万人が伊丹−成田便を使っているが、なくなれば航空会社は関空に便を張り付ける。まずは関西−成田に切り替えたら」と指摘。

 その上で「航空会社も『それなら最初から関西空港から(国際線を)』となるのでは」と述べ、成田と比べて圧倒的に少ない北米や欧州路線などの関空への誘致にも有効との認識を示した。

http://www.47news.jp/CN/200811/CN2008110401000883.html

あほかと。大阪府知事に独断でそれを決める権限がないのが救いだが。こいつ海外いったことないんじゃないかとすら思えてくる。関空の田舎空港ぶりといったら、もう使うたびにうんざりさせられるが、それはおいて、関空を航空会社が使いたがらないのは小さくは空港利用料の高さとそもそもの利用者の少なさ(旅客・貨物とも。貨物が伊丹他に流れるのはやはり利用料問題だし、旅客については関西三空港のなかで一番都心から離れているというのが理由の一つ)、大きくは関西とりわけ大阪の経済的地盤沈下のなせる業だろう。人口でいえば大阪市が日本第二の都市だったのは1980年代半ばまでで、以降は横浜市の後塵を拝している。大阪の人間はともすると横浜を東京のたんなる衛星都市とみなして大阪が日本第二の都市だといいたがるが、個人的にはその主張にはかなり無理があると思っている。閑話休題

ともかく関空の使いづらさといったら救いがたく、都心から遠いことはもう書いたが、それはニューアークとニューヨークシティだって大概離れているし致命的な欠点ではないことにしておいてもよい。問題は、いまどきの空港とは思えないファシリティのへぼさで、めしはまあおいておいても*1、なにしろ今どきホットスポットなどというものがまだあって、これが無料であることは褒めてよいが、スポットというからにはそこを少し離れてしまえば無線LANには接続できなくなり、そうして通関手続きを済ませてしまうと、もう無線LANはないのである。こんなことだったらニューアークみたいに24時間当たりで接続を売ってもらったほうがまだいい*2。日本人はみな携帯電話経由で接続を買うことに馴れているので気にしないのかもしれないが、国際空港、それもビジネス客も多く使うはずの国際空港としてはかなりまずいんじゃないかと思う。シャルムエルシェイクみたいな避暑地の空港ならともかくとして。

そう。いまどき空港のどこからでもネットにつながらないというのは発展途上国でなければ考えられない。そうしてチャンギやドバイならとはいえつながるんじゃないだろうか。チャンギはパスポートを要求されるものの、無線LANへの接続権が簡単にもらえて、それで友達や宿との連絡を取ってこれも大いに重宝した。しかし関空ではそうはいかない。確かにつながりはするが、つながっていたかったら他のことがもう出来ない。重い荷物を抱えて動きづらいところで、チャンギだったらどこかの喫茶店に座ってお茶でものみながらメールチェックできるところを、関空だと椅子もたいしておいていないホットスポットの周りにめしも食わずにへばりついていないといけない。メールを書きながら、これならよっぽどカイロ国際空港の方がましだったなあとわたくしはおもいましたですよ。お手ごろな値段のマッサージパーラーがそこここにあって空港につくなり美味しい薬草茶をいただきながら足つぼマッサージを愉しんだチャンギとは比べるのも無駄なのでもう多言しない。

さて伊丹―成田便だが、実際のところ、旅客に関しては阪神間や京都からなら伊丹から成田へ回るほうが楽だと感じる。とりわけ阪神間関空に直接いく手段が限られるし(高速バス以外では乗り換えの必要がある)、梅田のターミナルをラゲッジをひきずって歩き回るよりは、伊丹までなんとかすればいい成田周りのほうが楽に動ける。伊丹―成田便は朝早いのでわたしにはしんどいが、それをおいても成田周りのほうが身軽に動ける。そして成田もたいがい田舎空港だが関空よりはもう少しファシリティがいいように思う。これは1万円上乗せして買うに値するサービスだと私は思っている。もちろん贅沢といえば贅沢だが、放蕩というほどの無駄でもなし、関空で無駄に数時間を費やすことを考えれば帳尻はあうんではないかとも思っている。また千葉北部と関西を移動する人も伊丹―成田便を使うらしい。貨物に関しては、これはたまに本を買う京都の洋書屋さんから聞いた話だが、そこは荷物をすべて成田経由で受け取るそうである。配送時間の違いは1日かそこら、そうして空港使用料の違いが荷主の負担になるそうで、勢い関空を敬遠して成田指定で荷物を受け取るということになるという。

その伊丹―成田便がなくなったら。梅田で乗り換えして関空へ行くより、新幹線+NEXで成田へ回るような気はするなあ。梅田で乗り換えすることは変わりはないが、成田のほうがいろいろ便もあるし、また人によってはネット接続のあるN700に乗るほうが関空で無駄に時間をつぶすよりましという考えはあるかも知れない。そうして関空には直行便が少ないので関空へ出るまで多少時間を節約出来ても結局トランジットまで含めれば成田経由のほうが速い場所は多そうだ*3。私は関空を我慢してチャンギかインチョン周りを選ぶかもしれないが、とはいえインチョンはともかくチャンギだとSQには北米便がないのだよなあ*4。となるとやはり成田へ回るのかもしれない。また私はまだ使ったことがないのだが―とあるヘビーユーザからファシリティ自体はそんなに他の国内空港と変わらないときいたこともあって―場所によっては関空からではなくセントレアから飛ぶという手もある。関空というのは関西内からでも下手すると2千円・1時間強くらいはかかるので、それならいっそ新幹線で名古屋まで出るのでも価格の上でも時間の上でもそんなには変わらない。飛行機の便によってはセントレアへいったほうが便利な場合もあると思っている。

むしろ廃止するなら夕方の羽田―関空便を廃止してほしい。亡夫はいちど一便遅れて大阪行に載ったところ関空行きに載せられてしまい、伊丹からの交通費くらいしか懐になかったこともあり、羽田から泣きそうな声で電話をかけてきた。むろんすぐに迎えにいったのだが*5、それでも自宅から関空に着いたときには夫は到着ターミナルのベンチに座って待っていた*6。羽田関空間1時間前後、街から関空はそれだけ遠い。そんな遅い時間にわざわざ客を離れ小島に連れて行くというのは嫌がらせ以外のなにものでもない。21時以降ならともかくそれ以前に伊丹に着く便は伊丹に回してほしいものである。

かくも関空が使いづらいからひとは関空以外を使う。伊丹―成田便の旅客をたとえ廃止したところで、いま関空を敬遠している貨物が成田や伊丹から関空に戻ってくるわけでもあるまい。橋下が関空の利用者を増やしたいなら、空港使用料を大幅に引き下げることと、ターミナルを大改修する(もしくは新しく作る)ことが必要なのであって、わけのわからん口三味線を弾いても何も出てきまい。いまの関空がどんなひどい場末の空港なのか、チャンギやインチョンを見てくれば嫌でもよくわかる。古いからというのはいいわけにならなくて、フランクフルト・アム・マインのT1などは1970年代竣工だがルフトハンザの入っているコンコースなどは何度か内装をやり直していて、使いやすい。――それとも橋下は関空を他の関西諸空港を道連れにしてでもいっそ廃止したいのだろうか?

*1:でも到着ロビーにマッサージ屋がないのと、粥屋がないのは大いに不満。この点優良なのは台北の桃園国際空港で、粥屋が朝の5時台から開いていて、安くて量がたっぷりでうまかった。

*2:ニューアークでは無線LANへの接続は有料で4ドルくらいとられるが、買えば空港内のどこにいてもつながる。それこそ出発前までメールを書ける。わたしがいったときにはちょうど飛行機の遅延があったので、友人のコンソールを借りて宿泊先とメールでやりとりをした。終電がない時間に到着したこともあり、メールでもらった指示に大いに助かった。

*3:関空と成田の地上周りでの差は3時間、トランジットで3時間などそうないから、結局関空―どっか経由より成田経由のほうが時間距離は総体では短いことになりそう。

*4:皆無ではないが。あってもUAコードシェアなのでちょっと怖い。あるいは北米ならエア・カナダのほうが便利かもしれない―米系キャリアもあるけど基本的におすすめできない。ところでACはKIX-YVRを運用していたが、この便は先月運休になったそうだ(参考)。

*5:わたしもたぶんとても動転していて、JRで初乗りを買って天王寺あたりで降りて待っていてもらえばもっと早くふたりとも帰宅できた。さらに梅田までやってきてそこで私を待つという選択肢もあったのかもしれないが、そういう発想が出ないところが彼らしいといえば彼らしい。

*6:そこでクレジットカードの使える喫茶店でも入ればいいのにと今では思うが、当時は携帯電話もお互いもっていなかったし、そういう器用さのある人でもなかった。