うすら馬鹿に見える7つの言い回し

というのは云いすぎだが(That's why, You mean ..? などは有用、ただし後者は正格文法では Do you mean ..? となる)、http://d.hatena.ne.jp/aureliano/20081111/1226409288を読んで感心し、自分もやってみようと思った人にはいいたい。

やめておきなさい。まじおすすめできない。

You know ... などは Anyway と同じく多用しすぎれば阿呆だと思われる。米中西部出身の人などがよく多用するが(Kansas とか)、よくいえば都会ずれしていない、悪く言えば田舎もの。ほほえましくもあるが、あえて悪目立ちする方向へ進まずともよかろう。

日本人は学校できちんと規範文法を習い、綴りも r/l を除けばほぼ正確、もともとの日本語の標準的な表現のポライトネスが高いせいもあって、素直に普通に喋るだけで、教養の香り高く上品でいながら親しみやすい素敵な英語を使う人という評判を勝ち得ることが出来る。日本語の言い回しをそのまま英語に置き換えて、それは英語としてはやや破格だが意味が通じないわけではなく2008.11.14 注記、かえってなにかいわくいいがたいニュアンスを与えてくれる。外国人の話す言語というのはそれでいいのだと思う。*1

なお、ブックマークコメントを瞥見するに、米国人に通じることをえらく気にしている人がいるようで、確かに彼らは最大の英語話者人口を有してはいるが、それ以上に目下のところ英語は国際通用語(lingua franca)である。米国人はたかだか世界人口の1/30 を占めるのみ、そうして米国人に通じやすい英語が直ちに他の人々に通じるというわけではない。私はウィキメディア・プロジェクトのボランティアメンバーであることもあって、英語を常用するが、英語母語(米語というのかな)話者との会話よりは非英語母語話者との会話のほうがやや多いくらいだ。そもそもウィキメディア財団というプロジェクトの運営団体の職員の構成が米国人と非米国人半々、米国人風の表現にこだわることは、そこではあまり意味がない。やたらに米語風にこだわることは、かえってイギリス・カナダ・オーストラリア等々いわゆるブリティッシュ・イングリッシュ圏の人々や他言語話者の反感を買う地雷原に足を踏み入れることにもなりかねない*2

すでに米国に移住しグリーンカードも取得して骨を埋める覚悟があるなら米語口語風表現に精進するのもよいだろう。だがそうでないなら上述のエントリは有害ですらある、と私は思う。とくに繰り返しいうが you know の多用は有害である。そもそも英語があまりうまく出来ないだけで、一部の英語話者はこちらを知恵遅れ扱いしかねないというのに*3、さらに自分を阿呆に演出してどうしようというのか。

ブックマークにも書いたが、学問に王道なしという『原論』の金言は言語学習にも妥当する。もう一度いう。王道などない。文法を学び、語彙を増やし、多く聴き多く発話し多く綴る、それ以外にある言語に熟達するすべなどない。

そうして、私の経験から、日本の学校教育で受ける教育は、それほどひどいものではない。現に私は英会話学校の類には通ったことがない。小中高と大学での授業、それが私の受けた英語教育のすべてである。たいていの人には発話に必要な最低限の知識は備わっている――あと必要なのは、ただ実際に口を開くことだけではないのだろうか。

一日一チベットリンクhttp://sankei.jp.msn.com/world/china/081105/chn0811050840002-n1.htm2008 .11.5

*1:r/l を日本人が苦手なのはよく知られているので、ブロードウェイで女優になりたいような人を除けばそう神経質になる必要はない。かえってちょっと欠点があるくらいのほうが人間愛嬌があってよいという見方もある。

*2:あるときオーストラリア生まれの友人に自分の英語を添削してもらったら、文法や語法の違いもさることながら綴りがすべて英国風になって返ってきた。自分の普段の書き方ではないけれど、彼の好意を慮ってそのまま公開したことはいうまでもない。ここには暗く深い淵があって英語版ウィキペディアには「つづりを書き換えるだけの編集はやめましょう」というガイドラインもある。裏を返せばガイドライン制定以前の世界では綴りをめぐる闘争があちこちで勃発したということでもある……

*3:教養のある人はもちろんこんなことはしない。だが世の中には破廉恥漢も少なからずいる。ヴォルテールの標語は、だから今でも有効である。