「配偶者がうつ病になったときにするべき、たった一つのこと」へのコメントとお返事

先週のエントリ配偶者がうつ病になったときにするべき、たった一つのこと - 鰤端末鉄野菜 Brittys Wakeに沢山の反響をいただいた。はてなブックマーク、コメント欄、そして沢山のブログエントリ。その反響が、みなさんが「配偶者(ないし直近の家族)も受診する」ことの大事さを心に刻んでくださったことの現れであればよいなと思っている。わたしのようにし残したことを後悔して泣く人がひとりでも減ってほしいし、闘病中の人がよりよい「生活の質」(クォリティ・オヴ・ライフ、略してQOL)を享受できるようになってほしいと思う。

いただいた反響の中には、私があやふやに認識していた点についてのご注意や、私が書き漏らした重要な点についてのご指摘、あるいはうつ病や医療一般、ネットリタラシー等をめぐるさまざまな視点からのご意見があった。すべてを取り上げることはわたしの能力を超えるので、代表的と思われるものを選んでいくつかご紹介したい。

費用について・お詫びと訂正

前のエントリでは家族の診察は「初診料込みで1500円ほど」と書いたのだが、違うのではないかというご指摘をいただいた(例として配偶者がうつ病になったとき(健やかなる時も、病める時も……ずっと、きみを愛してる ) – 某氏の戯言、またid:Terra-Khanさん)。これは皆さまご指摘のとおりかと思う。たんに「1500円」とするのが妥当のようだ。調査が至らず申し訳ありません。

以下、ご指摘をうけて調べたこと。まず、すでに受診中の患者の家族が同じ医師に説明等を受けるため受診する場合には、患者の費用勘定として請求されるようである。よって家族が初診でという扱いにはならない。

また各種資料をみると、精神科外来通院時の通院精神療法の請求金額は現在「現在、病院で3300円、診療所で3600円」だそうである(資料1)(病院と診療所の違いは病床数による)。リンク先では2008年2月の日付だが、他サイトをみても現行かわらないかと思われる(しろぼんねっと-解釈-医科-特掲診療料-精神科専門療法-精神科専門療法料-I002通院精神療法)すると患者負担分は国保等加入者ならばその3割であり、これに他の費目を足して、再診扱いで患者負担額は1500円前後となる(資料2)。

以上、わたしの調査が行き届かず、誤った情報を流したことをお詫び申し上げ、またご指摘いただいたみなさまにお礼申し上げる。

なお「家族にうつ病であると告げないなんてことは絶対にありえない」というご指摘があったが、患者本人が家族に隠している場合について前エントリでは述べた。病院が家族に隠すということをいっているのではない。ブックマークコメントでも家族に隠す事例の指摘はあった(ご尊父がご母堂に隠していたという話)。私の亡夫が通院していたときも、とくにクリニックから家族に連絡が来るということはなかったので、患者本人が隠そうと思えば隠せるだろうなとは思う。

薬漬けの治療? うつ病は予防できる?

わたしはもちろん医学には素人だが、現在の主流説である「うつ病は脳の内分泌異常によってもたらされる病気であり、その主症状は精神に現れる」「うつ病はストレスと大きな関連をもつが、その発病機構は解明されていない」という説明に満足している。それは論理的に一貫しているようにみえるし、またわたし個人が知っている複数のうつ病患者の生活とも矛盾しない。なので「くすり漬け」批判や「うつ病は予防できる」という説に対しては、十分な根拠が示されない限り、耳を貸す理由がないと考えている。前のエントリでいった「ネットの助言は何の役にも立たない」の好例かと思っている。

仮にうつ病が薬では治らず、患者の「治す気」にのみよって治るのだとしよう。しかしSSRISNRIなどの抗うつ薬は、きちんと効いた場合には、患者のQOLを改善する。少なくともうつ病だった亡夫の場合はそうだった。いままで眠れない夜を過ごし死にたいと訴えていた彼が、一時とはいえ、よく眠りよく食べ自分から日本シリーズのチケットを手配して野球を見に行こうと言い出すくらいには回復したのは、ひとえに薬のおかげであった、と私は考えている。病的な恐怖と悲嘆で崩壊しそうになっている人の精神を薬で安全に和らげることが出来るなら、それを止めろというのは大きなお世話を通り越して有害な意見というものではないだろうか。もちろん薬には副作用というものもあって、だからこそ主治医や薬剤師と協働しつつ正しい投薬管理が必要となる。だからここで再びご家族の方には「主治医と会って話をしなさい」と繰り返しておく。

おすすめエントリ

いくつかのエントリのなかでとりわけ重要な論点・視点を示しているとわたしが考えたものを挙げておく。

 医療側からの「患者さんの家族も来てください」。この方自身は精神科の方ではない。けれどどの科を受診するにしても、参考になるとわたしは思った。おそらくは、ある程度には重篤な、そして治療に長い時間の掛かる病気すべてについて「患者の家族も主治医と会ってきちんと説明を受ける」ということは必要なのだろう。長文だが、みんなに一度よんでほしいと思う。

 ネットリタラシー一般について。病気のことに限らず、ネット上の助言が必ずしも正しいものではないという危険について述べられている。とくに、書き込みに時間制限のある相談系のサイトは却って危ないという指摘は重要だと思う。そのサイトの上では訂正しようがないために、誤解が再生産される虞が生じるということは、つい忘れられがちであるから。

 また「セカンドオピニオン」の重要性とそのありかたについても、上記2エントリはそれぞれに述べられていて、これも大事な論点と思う。

 こちらは代わって体験記。患者家族の立場から書かれている。グリーフワーク(喪の仕事)では、同じような悲嘆体験をもつ人同士が自助グループで集まり体験談を交換するのが悲嘆の克服の過程で有効だといわれているのだが、精神病患者の家族でも同様なのかなと思った。なのでidトラックバックのみのものもあえて拾っている。いろいろな人のものを読むほうがいいので。
 精神病患者の家族会というのも、いくつかあるようなので、ひとりで押しつぶされそうになっている方は、そうした会に顔を出してみるのもよいかもしれない。もちろん、主治医とまず会ったあとでの話だが。

正しい認識をもつということ――体験談を越えて

id:takeover67さんのご尊父の(そしてご母堂の)話は、一歩間違えると非常に怖い話で、誤った医療情報の恐ろしさをつくづく感じた。これは鬱病の元患者が鬱病の良き理解者とは限らない。かも知れない。 - 小学校笑いぐさ日記で懸念されていたことそのものであるよな、と思う。

自分のことを考えてみると、昔からある程度精神医学に関心があって、いろいろな本を読んでいたのが、事態を受け止める助けにはなった。私が最初に読んだのは斉藤茂太さんのエッセイ集だったが、うつ病について特に書かれた本も最近は多く、いっぽうわたしは近刊にはそれほど詳しくない。ご関心のある方はそれぞれご自分で調べてみるのがよいと思う。

わたし自身は医師でも医療従事者でもない、患者の元・家族である。あるいは死別反応によるうつ状態の元経験者である。むろん自分の経験として「一日に少しは戸外に出るのが気分転換にもよい」「ネットでのコミュニケーションは有益なことも多いが総体としては危険が多く、あまりお勧めはしない」等のことはいえるが、それは私個人にはその習慣が有益だったりなかったりという以上の意味を持たない。なので個々の習慣について、わたしは強く勧めもしないし、強く非難もしない(id:xevraさんとの違いがあるとすればそこだろう)。むしろ、そういうことの一切を含め、あなたが患者の家族であるならば、または将来その立場におかれたならば、医師と話すことからまず初めてほしいと思っている。