中卒を大学院に入れたっていいじゃないか

あるコミュニティの飲み会で、中卒の(高校を中退した方なのでそうなる)あるエンジニアの方に、ある大学の先生が「ぼくの研究室に来ないか」と声をかけていた。結局そのエンジニアの方は大学へ行くよりやりたいことがあるということで先生はすげなく袖にされていたのですが、FLOSSコミュニティではそういう話をときどき聞く。なので、世の中はもう、そういうことに、すっかり寛容になっていたのかと思うんですが、実はそういうわけでもまだなかったらしい。

いちおうはじめに断っておくが、私は野球選手としての桑田真澄のファンであった。偶然にも同じ年で、その頃は高校野球も真面目にみていて、彼がPL学園の1年生で背番号11だった頃からのファンである。そうしてその頃は巨人ファンでもあったので(関東の子どもというのは当時はそういうものであった)、ある時期までは熱烈なファンであった。そうして桑田のクレバーな投球はやはり見ていて面白く、巨人ファンをやめた後でも桑田は好きだった。オリックス日本シリーズに出て、生の桑田をみたときには、その晩は興奮して眠れなかったくらいである。さて、そういうファンの目からものをみているので、目が曇っていることは覚悟の上で、私はいいたい。高卒を大学院にいれて何が悪い。いや高卒である必要もない、中卒を大学院にいれて、それで何か不都合がありますか?

大学院の入学資格は普通は四年制大学を修了したか修了見込み、学校によっては三年次修了でも入学できる。飛び級という奴で、工学系にはさいきん多い。なお飛び級の場合、修士号を取れないと大学中退ということになる。そのほかに、大学側が判断して受験資格を与える場合がある。個別入学資格審査というやつですな。桑田氏の場合も、そういうことらしい。加えて大学側がいくつか条件を課しているようではあるが。

中には、「結果はどうだったかわからないけど元プロ野球選手だから合格させただけのようにしか思えない」「自分たちがやっている大学教育の価値そのものを否定する行為じゃないのだろうか」などと、高卒で合格させる選考のあり方に疑問の目を向ける書き込みもあった。

「高卒で大学院受かるのか」 桑田合格で早大に質問相次ぐ : J-CASTニュース

まあ私大さんは商売がうまいから、最初に書いたようなことを考える方もスタッフのなかにはいるのかもしれない。その辺には興味はない。馬鹿な運営をやればその大学は淘汰される、ただそれだけのことだろうと思っている。それに対して「自分たちがやっている大学教育の価値そのものを否定する行為」というのはおやと思った。どうしてそういうロジックになるのか、よく分からない。ていうか、早大スポーツ科学研究科の出願条件はかなり厳しいものにみえる。大学側の課す個別入学資格審査に合格した上で、実務経験が要求されているという。

早大スポーツ科学研究科では、出願資格として、さらに3つの条件がある。日本代表などのトップレベルの実績3年以上、スポーツビジネス関連企業などで通算5年以上の実務経験、弁護士などの資格といったものだ。早大広報課では、「一般の受験とは違うコース」と説明している。

「高卒で大学院受かるのか」 桑田合格で早大に質問相次ぐ : J-CASTニュース

四年制大学卒業してたら、ただでもらえる出願資格(つまりたんに規定の受験料を払って願書を提出する資格である)が、実務経験となれば「日本代表などのトップレベルの実績3年以上」等という。日本代表2年やっただけではまだ足りないらしい。これむしろ「日本代表も安くなったものだな」といっていいような気がするんですけど、どうでしょう。わたしはいわないけどね。

勉強したいひと、研究したい人がいて、その指導を引き受けたいという教員がいる。自分なら指導できる、二年なり三年なりで論文書かせてものにできる、研究科の他の先生もそれで任せてみようということになる、大学院に受かるというのはそういうことである。それは、お見合いのようなものだ。もしかしたらうまくいかないかもしれない、しかしそれは基本的には本人と指導教員の問題だ。余人はただ祝福してやればいいのだ、わたしはそう思う。

個人的には、桑田氏にとって、いま院に入ることが最良の選択だったかどうかは疑問がある。アカデミックな思考の訓練を受けていないという欠点は、この先じわじわ効いてくるだろう。可能ならば、1年か2年ほど研究生や聴講生として講座にいて、そうした基礎的な知的操作の訓練をできたほうがよかったのではないかとも思う。わたしがいた研究室では、何人か、他の分野から移ってきた院の受験生をそうして研究生という身分で1年ほど修行させるということをやっていた。しかし、大学側がそれなしに当該の学生を引き受けられると判断した以上、それは余計なお世話というものだろう。

この先に何が起こるのか、それはまだわからないけれど、いまは院に合格した桑田氏のこれからを祝したい。