村上春樹をエルサレム賞講演がきっかけで読み始める人に勧める5冊の本

文庫本を紹介しているので、結果的に5冊以上になっています。羊頭狗肉ですが、ご勘弁。

1.『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈上〉 (新潮文庫)

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈上〉 (新潮文庫)

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈下〉 (新潮文庫)

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈下〉 (新潮文庫)

現代(というよりは1980年代)の東京を舞台とする「ハードボイルド・ワンダーランド」と、その主人公の無意識化の世界「世界の終り」の二層が交互浸透しつつ物語が紡がれる。1985年発表、初期村上の代表作のひとつ。

「壁」が小説の構造のなかで大きな意味をもたされている。

2.『風の歌を聴け

風の歌を聴け (講談社文庫)

風の歌を聴け (講談社文庫)

デビュー作、1979年。中篇なので一気に読める。村上の基本的な傾向、つまり彼の関心と物語りの作法のありよう、そして限界が綺麗に出ている。村上という作家の全体像を捉えるには、やはり外せない一冊と思う。図書館が近くにある方は、『村上春樹 全作品』第1巻を借りるとよい。第二作であり続編でもある『1973年のピンボール』(asin:4062749114)も一緒に収録されている。

3.『走ることについて語るときに僕の語ること』

走ることについて語るときに僕の語ること

走ることについて語るときに僕の語ること

作家自身による作家論。2007年。まだ文庫には落ちていないようだ。ここでも言及されているが、村上はギリシアにしばしば滞在している。東地中海の北側にある種の偏愛があるようだ。小説のなかでマルタ島が言及されたこともあるし(後述)、ギリシアを含む東地中海沿岸地域への滞在記もある(『遠い太鼓』asin:4061853821、『雨天炎天』asin:4101001391)。

4.『神の子どもたちはみな踊る

神の子どもたちはみな踊る (新潮文庫)

神の子どもたちはみな踊る (新潮文庫)

アンダーグラウンドasin:4062639971とこちらと、どちらにするか迷ったが、こちらにした。両方とも1995年を扱ったいわば「災厄の記」であるが、風合いはだいぶ異なる。『アンダーグラウンド』はルポルタージュ的なノンフィクションだが、こちらは連作小説。どちらも村上がそれまで取り上げたことのない形式であったことに留意したい*1。ちなみに私はこの中では「かえるくん、東京を救う」がとりわけ好きだ。軽妙なユーモアのなかに深い鎮魂の調べを感じるのは、私もまたあのとき関西と東京を往還する生活をしていたからか。

5.『ねじまき鳥クロニクル
最後の一冊は、何でもいいような気がしたが、これを推しておくことにする。

ねじまき鳥クロニクル〈第1部〉泥棒かささぎ編 (新潮文庫)

ねじまき鳥クロニクル〈第1部〉泥棒かささぎ編 (新潮文庫)

暴力ということ、権力ということを、それまでになくはっきり書くことに村上が取り組んだ作品。ただ、とても長い。ハードカバーで出た時に三分冊だった。そして村上に関心がない方にそれをいきなり勧めるのはどうかなと思ったので、とりあえず第一部のみを挙げておく。第一部と第二部は1994年、第三部は1995年に発表されている。当初の構想には第三部はなかったと、たしか作家は語っている。第三部を書く必然性を作家にもたらしたのは1995年にあったいくつかの災厄で、その意味では直前に挙げた二つの作品とも連関をもつ作品であろう。なおマルタ島への言及があるといったのはこの作品のことです。

このエントリが、あなたにとって作品と作家とのよい出会いの一助になることを願う。

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*1:それまでの村上のノンフィクションは旅行記など作家の生活を書くエッセイ風のものが多かった。