「訳すな、頭から読め」へのコメントとお返事

昨日書いた訳すな、頭から読め - 鰤端末鉄野菜 Brittys Wakeに、いろいろな反響をいただきました。ありがとうございます。こうやって反響をいただけるのは嬉しいし励みになります。ブックマークコメントやTBで教えていただいたサイトや書籍には初見のものも多く、勉強になります。

エントリで紹介した「ウィキペディア簡単な英語版」 http://simple.wikipedia.org にもブクマを多数いただき、ありがとうございます。Simple English Wikipedia についてはまた項を改めて紹介記事を書けたらと思ってます。

またコメントを拝見していて、書き漏らしたことがあるなと幾つか気づきました。英語テキストの音読の必要はすでに追記しました。またはじめは明示的に書いていなかった――というよりはおそらく自明のものとして忘れていた――事前にすべての語句の意味を辞書で確認しておく必要性も、もしかしたら書いたほうがいいのかなと思います。あまり短期間に改訂を繰り返すと読みづらくなるかもしれませんので、のちほど時間のあるときにゆっくり見直したいと思います。

さて、コメント等へのお返事にかえて、以下の三点について、書いてみました。

  • スラッシュリーディング
  • 日本語に直す必要はない?
  • 鰤端末のばあい

スラッシュリーディング

前エントリでは「適度にまとめる」のがこつだといいました。これに関連して、ブックマークコメントでスラッシュリーディングに言及される方が複数おられました。

調べてみると、通訳の訓練法のようです。英語の文の全体的な構造を意識しつつ、節 (clause) や句 (phrase) の前後にスラッシュを入れて、それぞれの区切りで独立した意味を取るそうです。前エントリでもまとめがはじまるところはスラッシュ(/)で区切っていたのは偶然とはいえおもしろく感じました。

「英語を前から読む」ことに慣れるために ALL IN ONE では(通訳訓練で用いられる)「スラッシュ・リーディング」という方法を取り入れています。スラッシュ(/)は意味の区切りを表します。文の構造(=5文型)をつかみながら,この「区切り」ごとに独立した意味をとり,そこで「足りない情報」を前から順に追いかけるようにします。

スラッシュは以下を基準にして引きます:

(1) 前置詞句(=副詞や形容詞)の前と後
(2) カンマ(,),セミコロン(;),コロン(:),ダッシュ(―)の前
(3) that節,疑問詞節,whether節の前
(4) 関係代名詞[関係副詞]の前
(5) to不定詞の前
(6) 接続詞(because, ifなど)の前
(7) 目的語や補語が長い場合にはそれらの前
(8) 主語が動名詞句や疑問詞句のように長い場合はその後

http://www.linkage-club.co.jp/A1OLD/Column/3.html

またid:shunsukさんのエントリスラッシュリーディングで英文がサクサク読める - このブログは証明できない。には、スラッシュリーディングの経験談が載っています。shunsukさんはテキストに実際にスラッシュを書き込むんだそうです。曰く「頭の中でスラッシュをいれるのと、実際に手を動かすのとでは大違いです」。わたしも学生時代には同じことをしていました。スラッシュリーディングだという意識はなかったのですが。こうした読み方に慣れていない方、また自分では出来ているというはっきりとした自覚のない方は、鉛筆で/を文に書き込んだ上で頭から読む訓練をするとよいと思います。

日本語にいちど直す必要はない?

日本語に直すのには反対という趣旨のコメントをいくつかはてなブックマークのコメントでいただきました(以下、注記のないときを除き、http://b.hatena.ne.jp/entry/http://d.hatena.ne.jp/Britty/20081225/p1 からの引用です)。

id:denden-cafe english, learning 例にあるような日本語化はかえってわかりにくい。機能語はピクトグラムのような形で頭に入ってると楽。ofだったら○→とか。文法の基礎ができてるならrapid reading始める前に"English Throug Pictures"の独習がおすすめ。

id:ahmok 頭から読むのは賛成。日本語に置き換えるのは反対/英語は英語のまま頭から読む方がもっとも楽だと思うけど/中文(中国語)をかじったら一挙に感覚が身についた

id:noy41 英語 というか、まともな受験生はいちいち単語を訳したりもしません

「頭から読む」メソッドは、あくまでも第二言語学習のための訓練メソッドであって、これ自体が語学習得の究極段階というわけではありません。究極の目的は、日本語を介在させずに、英語なら英語をそのままで読めるようになることにあります。第二言語学習の段階としては母語への移転/置き換え language transfer は最初期に位置します。「頭から読む」メソッドは、そういう初期段階の学習者を対象にしたメソッドです。すでに英語の語順で英語のまま読めている人には、このメソッドでの訓練は必須ではありません*1。なお本題からは外れますが、denden-cafe さんの「機能語はピクトグラムで」は同感です。わたしも前置詞や一部の副詞は自分で図を描いて、それをみながら例文を覚えて身につけました。in と on の違い、on と over の違いなど、空間的に視覚的に把握すると、ぐっと分かりやすくなります。

id:blackdragon English 読むならそれで何とかなるかも。聴くとなるとそれじゃ全然だめ。

ご指摘のとおり、この段階にとどまっていては耳で聞いて理解していくのは相当つらいと思います。話すのもややつらいかな。逆に読み書きは相当いいところまでいけると思います。インプット・アウトプットを増やすうちに、すっと日本語の意識的な介在なしで英語を理解できる次の段階へ移行できるんじゃないかと思います。あくまでも初心者向けの学習メソッドです。

id:narwhal 英語, 言語, 教育 ラディカルさに驚愕。頭から読むのは、英単語が自分の語彙になって訳語を意識せずに"Christmasはthe birth of Jesusをcelebrateするところのthe Christian holidayであって、ChristiansがbelieveするにはJesusは…"と読めた次の段階と思ってた

逆にこちらは「頭から読む」メソッドが有効な場合かなと思いました。たとえ英語の語句を翻訳せずに理解していたとしても、後ろから戻って意味内容を把握する癖のある方には、このメソッドでしばらく訓練することをおすすめします。narwhalさんの挙げておられるやり方だと、冠詞などの機能語の把握が甘くなる可能性があります。

id:daca 英語, 教育 訳語に置き換える手間がどうか。受験で教える人はいるけど和訳がいるとこもあるから受験にはベストではないかも。最終的にはこの形になると思うけど複雑な文章や難しい部分は立ち止まって解析してしまう。

このエントリだけでなくわたしのブログでは基本的に受験対応ということを考えていませんが、心配なさる必要はないと思います。わたしがこのメソッドを教わった塾は地元では進学実績に定評のあるところでした。塾の同級生は、早慶上智の外国語学部、津田塾あたりに行きました。またわたしは家庭教師としてこのやり方で偏差値25だった子を1年で偏差値55にし拓殖に合格させています。ですので、ご心配には及ばぬかと。翻訳を作る技術を別途習得すればよい話です。ただ受験直前に切り替えるのは、やめておいたほうがいいでしょうね。

日本語――というより母語――を介在させるのは、消極的にはわたしが教わった方法だからという機会の産物ですが、積極的にはふたつ理由があります。まずひとつめには、機械的におきかえを行うことで、意味がわからない箇所をごまかしていないかどうか厳密なチェックが出来ます。つまりこれは精読を前提としたメソッドで、単語などはあらかじめきちんと調べておく必要があります。ふたつめには、こうしたやり方が必要な段階では、たいていの方が英語の語句を英語それ自体の語彙のネットワークのなかで把握するには至っておりません。それで、意味をあやふやに、あるいは間違って覚えたままにしておくよりは、語ごとに日本語を使ってでも意識していくことが有用だと考えます。

いつか出来るようにならなければいけないのだから、いまから始めておく、というのは第二言語習得 (second language acquisition, SLA, L2Aとも) には当てはまらないようです。大が小を兼ねないのが言語の学習です。難しすぎることをやっても無駄で、ちょっとだけ難しいことをやると――そしてそのときだけ――効果的な学習ができる、という説があります。いきなり英語を英語だけで読むよりは、日本語を介在させてハードルを下げています。

また、私は意味が非常に取りづらい文の場合、まず音読し、それでも駄目なときには頭の中でこの置き換え作業を行って意味の把握を試みています。

鰤端末のばあい

私自身がどうやって読んでいるかといったら、別の場所ですこし書きましたが、英語に関してはこの方法で読むことはもう滅多にありません(皆無ではない)。英語をそういうものとして読み、理解します。日本語は一切介在しません。また音読するということもほとんどありません(非常に複雑な文章や見慣れない単語が多く混じる文は除く)。ただし頭のなかでは日本語をくぐりぬけているようです。どういうことが書いてあったか思い出そうとするととっさには日本語が出てきますし、英語で云おうとすると微妙に表現が変わります。そのままの文を記憶するのではなくて、内容を記憶し、そしておそらくそのときかまたは再生のときに日本語が介在するのでしょう、記憶をたぐって英語を書いて見ると日本人的な間違いをしていることも多くあります。

逆にいま習っているスペイン語はまだこの方法が有益な段階みたいです。既習事項の短文ならいいんですが、すこし難しい構文になると構造をするりとは理解できないようです。教えていただいたスラッシュリーディングは有益かなと思いますので、今後自分の言語学習にも取り入れていきたいですね。

id:isikaribetu07 Language この内容がそんなにおかしいとは思わないが、(はてブの傾向として)個人的成功体験の類に頷いてるばかりなのもどうかと。白井恭弘『外国語学習の科学―第二言語習得論とは何か』(岩波新書)のような本も読もうよ。

これは重要な指摘だと思います。以前に紹介した英語に関する本の多くも、学習理論というよりは著者の体験談でした。第二言語習得についての理論的な本をこのブログで紹介したことはないと思います。はてなには言語学専門の方もいらっしゃるようなので、そういう方が英語であるとないとにかかわらず第二言語習得論の最新の水準について書いてくださるといいなあと思います。甘いかな。

*1:ただし読めているつもりで冠詞などを適当に流していることなどはありえますので、チェックとしてときたまやってみるのは有益かと思います。