速読狂時代

「知らないと損する英語の速読方法」というエントリが注目を集めている。三部に渡る大作である。(1)だけ読んだ限りでは、わりと王道だと思った。

トニー・ブザンの RapidSpeed Reading を参考にしているようで、とすると他の本でも紹介されている方法かなと思う。ブザンの方法は、いくつかの技法の組み合わせからなっていて、よいやりかただと思った。わたしが読んだのは確か Use Your Head である。

Use Your Head (Mind Set)

Use Your Head (Mind Set)

そのうちの幾つかのやり方――ペンなどをガイダンスにして読む――というのは速読が特に必要でない場合にも有効かと思う。さらに、英語速読法の訓練としてブザンの本を読むのもありかな、と思う。

ただしid:kousuke-iさんの方法は、人を選ぶと思う。まず1)怠惰な人には向かない。この手の速読法訓練はわたしも二度ならず試みたことがあるが、いずれも挫折した。ちなみにわたしは毎年ダイエットにも挫折している。今年は「毎朝日のあるうちに30分外に出る」という目標を立てたが、三が日終わらない前に挫折した。つまり決まったことを毎日するのがとても苦手なのである。そういう私にはあの手の緻密な練習法は向かないらしい。でもやりとげられればかなり早く読めるのだろうとは思う。現に、やってみたらすこうしだけだけれど読むのが前より速くなった。気がする。じゃないかな。なので皆様はがんばってください。もっともある程度努力し時間を割かなければ、言語習得というのは無理だというのは以前書いた

次に2)ある程度英語がすでに読める人でなければ向かない。というより、薦められているやり方では、大学入試レベルの英語が辞書なしで読める――つまり相当の上級者でなければ、速読の訓練がそもそも成り立たず、また読んだものも頭に入らないだろうと思う。クラッシェンの第二言語習得理論には「N+1仮説」と呼ばれるものがあって、曰く学習者のレベルを少しだけ上回る教材を使うときにのみ、効果的な習得が起こるという。kousuke-iさんの方法を、初学者やあるいはまだ基礎が十分でない人が、自分の実力を超える教材で試すと、効果があがらないだけでなく学習意欲の減衰をも招くのではないかと危惧する。

とはいえ速読が必要な方にとって、言及されている訓練法がかなり有効であることは推測に難くない。またわたしが挙げた二番目の難点については、適切な教材を選ぶことで、かなり回避できる。

そこでkousuke-iさんの方法を実践して速読の訓練に乗り出す方に、私からおすすめしたいことは二点ある。まず1)上述の速読法訓練を試すなら、自分の言語習得レベルにあっているかどうかを検討するのがよいだろう。大学受験の長文読解問題が、辞書なしには読めないレベルであったら、残念ながらまだ時期尚早かと思う。そういう方には、以前このブログでも言及した「対応する日本語文を読んだあとで、長文を読む」タイプの訓練のほうが向いていると思う(この訓練法については松永さんのエントリ「訳すな、構造を理解せよ、そして、とにかく長いのを読め[絵文録ことのは]2008/12/26」が詳しい)。一方、300ワードほどの文章にひとつかふたつ分からない単語や句が出るレベルなら、そろそろ速読法の訓練を試してもよいだろう。ただしその場合も、外国人学習者向けに、使用単語を制限した教材を使うほうが特に学習初期には効果的かと思うし、人によっては逆に精読の訓練(以前に「訳すな、頭から読め」で紹介したような)がかえって有効であるかもしれない。

次に2)本気で速読法の訓練をしたいなら、日本語等あなたの母語でも同じ訓練をしたほうがよい、ということだ。逆にいうと、母語で一定以上のスピードで読める人なら、とくに特殊な訓練をしなくても自分の言語能力に相応の速さで、外国語の文章を読むことが出来る。前にも述べたことだが、外国語の運用能力は母語の運用能力を決して上回ることがない。これは速読の場合も同様である。

なおわたし自身はあまり速読ということを意識して行わない。とはいえ、たまに大量のものをよむ必要はあって、その場合には立花隆さんの方法を用いている。氏の、ある書評本で紹介されていたのだと思うが、各段落の第一文ないし第二文までを読むというものだ。これにトニー・ブザンの棒やペン等のガイダンスを使って、読んでいる文をなぞるようにして追うという方法を併用することもある。これだけでも、かなり速くスキミング(要点だけを読むこと)が出来る。ご関心のある向きは、いちどお試しを。

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