「英語の発音」へのコメントとお返事

12日のエントリ「英語の発音 - 鰤端末鉄野菜 Brittys Wake」に、はてなブックマークなどで、さまざまなコメントをいただきました。またいくつかのブログでも言及をいただきました。お礼申し上げます。

英語の発音は練習で改善できる?

「鰤端末鉄野菜」を初めて、今回のエントリがいままでで一番賛否両論を寄せられたんじゃないかと思います。「英語の発音は練習するな」という一節があるのですが、とくにここには賛成以上に反対が多かったように思います。また、反論というよりはこちらの意図を汲んでくださった上での補足のようなコメントもありますが、広義には反論と呼べるかと思いますので、ここで一緒に紹介します。

ほかにはてなブックマークでも反論をいただきました。

こうした反論は大別して、以下のふたつに分かれるかと思います。なお反論のなかには両方にまたがるものもあります。

  • 英語の正しい発音を身に付けることには意味がある。
  • 英語の発音は独習可能である。

わたしはこの二点について、あまり争おうとは思いません。専門家によるヴォイストレーニングの受講で発音を矯正する効用については、元のエントリでも触れており、私自身もその価値を認めています。ただ、多くの人にとって、それは英語学習のなかで最優先する目標ではないだろうと考えています。そう判断する理由についてはすでに述べました。「正しい発音」というのがある種の幻想であるということも指摘しており、それでも正しい発音にこだわりをもつ方はご自分の道を進まれるのがよいだろう、ということも前のエントリで述べましたので、この点で論の対立はないと考えています。

また独習が可能であるかどうかについても、争おうとは思いません。私は発音学の専門家ではないので、その点でなにか論を立てるほどの知見を持ちません。ですので独習可能論を完全に否定する材料は私にありません。一方、自分の経験に即して語れば、私は独学だけで発音学を身につけたわけではありません。ですので独学だけで発音の習得が可能かについては、肯定できる材料をもっていません。

ただ、専門家による指導を受けるほうが効率的だろうと思っています。私が英語をはじめたのはNHKラジオ講座で、口や舌の図をみて練習しましたが、所属大学の英文学の諸先生から指導を受け、講義や演習を通じて発声についてのトレーニングも受ける機会をもちました。そこでいろいろなことを初めて学ぶことができました。英語と日本語ではたんに口の形や舌の位置だけでなく、咽喉の筋肉の使い方や呼吸法が違うのです。そして第三者が聴いてはじめてわかるような欠点というのもあります。そういう教育を受けてきた人間の経験談としては、独学だけで何かが可能だと断言することは少しはばかられます。むしろ専門家の適切な実地指導の効果ということを再度強調しておきたいと、思います。

学校の効用

以前にも書きましたが、わたしは英語に関しては、ラジオ講座やいくつかの書籍以外には、金銭的な投資をしていません(ドイツ語は教室に通って習いました。あとの言語はすべて独習と学校の授業の組み合わせです)。ああ、学習塾には高校のとき3年間通いました、しかしまあそれは自腹を切ったわけではないのだからか、すぐ忘れます。それで思うのですが、とくに学生の方は、学校での授業をもっと活用したほうがいいのじゃないかなということです。

英文科や英語科が提供する講義や演習の効用はもとより、言語学一般に対して、知見をもっておくことは言語の学習の上でとても助けになります。そこで、とりわけ学生の方にお勧めしたいのは、学校の授業をもっと活用してほしいということです。正しい言語学の知識をもつこと、正しい英語学の知識をもつこと、英語学の最新の知見に基づいた指導法で英語の訓練を受けることは、のちのち大きな財産になるだろう、と思います。少なくとも、わたしにはそうでした。英語に限らず、いろいろな言語を独習する上でも、そうした知識は大いに役立っています。

そうした知見が、街の英語教室でも身に付く知識なのかどうか、私は知りません。仮にそうだとしても、それは別途お金を払ってはじめて接することの出来る情報でしょう――しかし大学では、それは授業料のうちに含まれてます。ぜひ活用しましょう。そうして大学というところでは、大学の資源を活用すればするほど、周囲はあなたを歓迎し惜しみなく知識と経験を分け与えてくれます。便宜を図ってくれます。それとも日本では学部や学科の壁は、いまいよよますます厚いのかな。だとすると、それは悲しいことですね……そうでないことを祈りますが。

なお『はじめての構造主義』を紹介されている方がいましたが、構造主義記号論はそもそも言語学から出てきたものなので(ソシュールの『一般言語学講義』)、それはとくに突飛な発想ではないと思う一方、発音学を学ぶにはやや迂遠ではないかなとも思います。

追記:言語学の書籍についてエントリを書きました。初心者による初心者のための言語学の本 - 鰤端末鉄野菜 Brittys Wake

発音よりもまずは話すこと、それも滑らかに調子よく

id:taroleo さんのLeo's Chronicle: TOEIC990点より大事なことを読んで、あなたはわたしかと思いましたw

発音は違えど、皆、英語という共通語を通して、コミュニケーションをとっている。ただ、方言と違うのは、使っている言葉は書いてみるとほとんど同じだというところ。論文など研究の世界の「普遍語」としての書き言葉を見るだけでは想像もつかないほど、実際の英語の発音の仕方は多様です。その様子を肌で感じると、「発音」などはさほど気にするべきことではなく、むしろ淀みなく話す「流暢さ」に重きを置く学習の方が、実践で役に立つこととがわかると思います。

Leo's Chronicle: TOEIC990点より大事なこと

国際的な場面での(非母語話者が多くいる)英語コミュニケーションという似たような場面での経験に基づいているからでしょうか、とにかく喋ること、うたかたのように浮かび上がる想念を言語に置き換えて表現することの大事さを、taroleo さんも感じておられるのかなと思いました。その記事へのブックマークコメントでid:nosemさんは「決まり文句を覚えて流暢よりも,しっかり言葉を選んで話す感じで英語を話したい」とおっしゃっておられ、これは気分としては分かるし――ていうか、かつて私もそう考えていました――尊敬すべき態度かと思いますが、残念ながら現実的ではないと感じました。国際学会のフロアでそんなことをやったら、司会に「ねえ君、考えがまとまらないならあとで懇親会でやってね? では次の人!」とマイクを持っていかれかねません。ゆっくり話すのはよいですが、それにも限度があります。そうして、わたしの経験では、口がある程度自動的に回るような発話能力が身についていない人には、文法運用力の上でも語彙の上でも「言葉を選んで話す」のは難しいかと思いますし、口がある程度回る、つまり思考がそのままある外国語で出てくるようになるためには、定形的な短文の繰り返し練習がもっとも効果的であるように思います。

それでもやっぱり発話の練習がしたい――そうか、ならばシャドウイング

英語発音上達法: 母音と、子供番組 - シリコンバレー発:ベンチャービジネス・ブログでは、逆に、北米在住の方が「発音が悪い」としばしばいわれる例が紹介されています。同居の親族からそれをいわれるのはつらいですね。こういう場合には、居住地の標準音に沿った発音練習をするのが、家内(とご近所の)平和のために望ましいのかもしれません。ご健闘をお祈り申し上げます。

ここで id:Chakoando さんは、母音が急所だということをおっしゃっておられて、これはそうだろうなと思います。母音は頻出するので目立つということを指摘されていますが、もうひとつ、母音はストレス(強勢)が置かれ文全体のリズムを決定するパーツであるということも見逃せないかと思います。リズムよく話す大事さは、Chakoandoさんご自身もエントリの中で触れておられます。別の方の例で、in/flux » Blog Archive » 英語が嫌いでもセンター英語は満点とれる (1) 暗黒時代編の、英語の歌で英語を覚えていくやり方でも、ストレスのある音節の母音(と前置子音)に注目しておられましたね。

前のエントリでも書きましたが、なめらかな発話のためには、シャドウイングが有効です。渡辺千賀さんのエントリを紹介しましたが、これに対してChakoandoさんなどからは「映画は適切な教材ではないのでは」という疑問が呈されています(と読みました)。実はわたしもそう思います。

前回、あとで詳しく書くといった理由のひとつはここで、アクション映画(渡辺千賀さんの紹介した例では The Matrix)は大抵の場合、理想的な教材ではありません。日常会話で外国人が使うとぎょっとされるような表現がまじっていることもあり、またフィクションなどの場合誇張された現実では使われないような表現が入っていることもあります。

後日詳しく書きたいと思いますが、シャドウイングによる訓練が効果的に行われるには、内容が理解できる必要があります。
Chakoando さんは子ども用のPBSの英語教材を紹介しておられて、これはひとつの手だと思います。子ども用教材って、とくに初心者にはお役立ちですよね。また、もう少し高度な訓練をしたい方には、PBSに限らず、英語圏の放送局のサイトは、ビデオやラジオの動画・音声データに加え、それを文字に書き起こしたものを公開しているところが多く、読む訓練と聴く訓練の両方に活用することが出来ます。音楽でも同じことが出来ますね。私はいまスペイン語で音楽PVをみながらシャドウイングをやっています。音楽PVは、ニュースでシャドウイングするよりは悲壮感がなく楽しく出来るのがメリットかなと思っていますw いや私がおちゃらけで机に向って辛苦克己するというのが激しく苦手だからというだけかもしれないですけれども。

前から書くといっていて延び延びになっている「お風呂勉強法」は、実はこの「机に向って勉強できない」(≒ついネットとか漫画とかゲームとか他の本とかお料理とかその他一切のおもしろそうなものに手が出て、最初に立てたスケジュールが破綻する)という私自身の性癖との妥協なんですけれども、これを始めて自分の外国語能力はかなり向上した、と思っています。この話もそのうち書きたいと思ってます。

追記:シャドウイングについて書きました。シャドウイングの始め方 - 鰤端末鉄野菜 Brittys Wake

追記:お風呂勉強法について書きました。お風呂勉強法 - 鰤端末鉄野菜 Brittys Wake