ポーランド人は邪悪

規則その1:ポーランド人は間違っている。以上。奴らには奴らの意見があるだろうとか考えるのはやめましょう。そんなもの間違ってるに決まっている。加えて、奴らも自分が間違っているのは知っている。奴らが議論に参加してくるのは、ただ参加することができるからというにすぎない。

規則その2:ポーランド語が出来ることを奴らに見せ付けろ。"tea - who you - yeah bunny"*1といってみよう。君にとっては無意味だろうが、気にすることはない。ポーランド人にとってはそれは意味がある。そして面白いと思うだろう。ここで君は将来にわたって奴らの眼にどう映るかを決定できる。

規則その3:ピジン英語*2を使え。どうせ連中には違いがわからない。会話を次のフレーズで始めるとよい――「おまえは間違っている」"you are wrong" またはもう少し複雑な「おまえを教育している時間はないんだよ」"I don't have time to educate you."。

How to deal with Poles - Meta

メタ・ウィキメディアに伝わる伝説のドキュメントポーランド人のあしらい方」ポーランド人は邪悪だ」の冒頭部である(この「規則」は全部で10項目ある・なおドキュメント名訂正については追記を参照のこと)。たいていの良識あるウィキメディアンにとって、これはある種の腫れ物のようなもので、そうしてメタの常連になった投稿者はかなりの割合で、この「民族差別的で反吐の出そうな・プロジェクトの国際的な原則に真っ向から挑戦するたわごと」を消し去ってみたいという誘惑にかられる。そうして、これもまた伝説的な Polish canvassing、つまりポーランド人の組織票の前に敗北する。

わたしにも何故かはわからないのだが、ポーランド人はこれが大好きなのだ。ていうかそもそもこの文書自体が、英語版とポーランド語版のウィキペディアで活動していた、あるポーランド人の手になるものだ。そうして、ポーランド人は、これをみては自虐的な喜びににまにまし、さらにこれを削除したいという人が沢山沸いてくるのをみてさらににまにまするらしい。民族差別に反対する人たちをみて満足するというよりは、この自虐ギャグがポーランド人以外には通じないということを確認して、いいようのない喜びを感じるのだと複数のポーランド人から聞かされた。もうなんだかよくわからない。なかには「ここに出てくること――たとえば『外国語の本にそう書いてあった、といえ。いえばポーランド人は黙る』は実際にそうなんだ。これは残念ながらほんとうのことなんだ。だから面白いんだよ」という意見もあった。

もっともポーランド人のすべてがこの自虐的ユーモアの持ち主であるというわけではなく、過去三回あった削除依頼のうちひとつはポーランド人投稿者によるものであった。「ポーランド人すべてにとって面白いわけじゃないということをわかって欲しい」という彼の切なる願いは、しかし他のポーランド人の「おお、それは申し訳なかった。しかしこの文書がメタにあるということを思うとぼくはこよなく幸せに感じ、自分がウィキメディアというコミュニティの一員だということをしみじみと実感するのだよ。ぼくのウィキメディアンとしてのアイデンティティをきみ邪魔しないでくれたまえ」という合唱に、ただそういうものとして記録されるのにとどまったのであった。

それでもまあ、民族性を笑いの種にするということは地雷もいいところで、おおよそ他人がいうもんでもないのだろうなあと思う。宗教と人種は食卓の話題にするなというのも、配偶者の悪口をその実家の人にはいうなというのも、同じ発想なのだろう。エスニックジョークはそもそもが黒い笑いであるのだから、この手の笑いが誰にでも歓迎されると思う人が万一いるなら、それは随分お花畑なことだろうし、ましてや他民族をネタにするなら、過激なひとに国旗を焼かれるくらいの報復は覚悟しておくべきだったよなあ、とは思う。

放送中止が決まった「ヘタリア」について(公式発表)、関連は不明であるものの一部問題となった朝鮮キャラはアニメには登場しないという指摘があって、アニメには登場しないというのはそうなのだろうけど(未見)、二次制作が一次制作にも脚光を当てるということは当然あり、というかアニメ化などの二次制作はたいていのばあい原作品への好意的な身振りとして受け捉えられうるので、たんにこれをきっかけに問題になったくらいに思っていたほうがいいのではないかと考える。つまりいつかは起りえた問題というだけのことで、それがたまたま今回だったのだろう、と個人的には想像する。また一般論としてだが、一部の外国人――とりわけ南方ヨーロッパ系――の人には、日本人のヨーロッパ人のイメージが金髪碧眼であることにいたたまれないほどの人種差別を感じる人がいることは覚えておいてよいようにも思う。南方、つまり地中海沿岸ではヨーロッパでもむしろ黒髪黒目のほうが多く、背もさほどは高くないのが身体的特徴である。ナチス・ドイツといえばユダヤ人虐殺で有名だが、ポーランドやなかにはユダヤ人の児童でブロンドで青い眼のこどもを拉致してドイツ人家庭の養子として育てさせるプロジェクトがあったことは、ヨーロッパではいまだに忘れ去られていない。

ポーランド人の自虐趣味も、おそらくはロシアとドイツに挟まれた長い歴史のなかで獲得されたもので、それをおもうとなにやらいたましい気がする。そうして、こういう自虐趣味が広く理解されないということは、どちらかといえばよいことのような気がする。もっとも当のポーランド人はわたしのこうした感想にもまたにやにやするのだろうけど。

Inspired by:

追記:
セーブしてからもともと How to deal with Poles だったドキュメント名が Poles are evil (ポーランド人は邪悪だ)に変わっていることに気がついた。Polls are evil (投票はよくない)に引っ掛けてあるのだろうけど、ええっと……ポーランド人の自虐趣味の深さは、当分わたしには理解できなさそうだ。

*1:これはいまだによくわからない。だがポーランド人にとってこれはむちゃくちゃ笑えるポイントらしい。

*2:文法などが大幅に簡素化された、英語の出来ない人が使う英語もどきのこと。これが世代交代して一定の規則を備えるとクレオールと呼ばれる。