シスの暗黒卿がナチ支持者の聖職者の破門を撤回したそうです(追記アリ

タイトルは釣り気味。でも一部ではそういうこととして受け止められているみたい。そうして意図はともかく事実としては結果的にそうらしいので、イスラエルとかヨーロッパとかでは世論はひっくり返り、大変なことになっているらしい。

ホロコーストを否定した司教が破門を解かれた事件に関して - あんとに庵◆備忘録経由でhttp://www.cnn.co.jp/world/CNN200901270008.html

エルサレム(CNN) ローマ法王ベネディクト16世は24日、ナチスドイツ時代のユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)を否定する発言をした英国人のリチャード・ウィリアムソン司教らの破門を撤回すると発表した。イスラエルユダヤ人当局者は、これに強い不快感を示している。

破門を撤回されたのは、聖ピオ十世会所属のウィリアムソン司教ら4人。同司教は先日スウェーデンのテレビ局に対し、ナチスドイツの収容所で死亡したユダヤ人は20─30万人にのぼるものの、ガス室で死んだ者はいないなどと主張した。

ユダヤ人側との連絡を担当するキリスト教一致推進評議会のウォルター・カスパー枢機卿は電話でCNNに対し、「(破門撤回は)法王の決定。自分の意見はあるが、法王の決定にコメントしたくない」と述べた。

聖ピオ十世会は1960年代のバチカン改革に反対したルフェーブル大司教によって設立され、非認可の儀式で4人を聖職に任命。この結果88年、当時のローマ法王ヨハネ・パウロ2世が4人を破門した。

カトリック内部の専門家らの多くは、ベネディクト16世が超保守派との不和修復を図る一方、改革を全面的に容認してきたリベラル派との間に溝を作る危険を冒しているとの見方にある。

id:antonian さんの上記ブログに詳しいのだが、破門された人々はカトリックの内規(教会法)をめぐる行政的な手続きを無視したので先代さんにお咎めを受けたので、当時反ユダヤだったかどうかはおいて、反ユダヤ風味の歴史修正主義的言動で追放された人が戻ってきたというわけではない。デンツィンガーとか手元にないのだが、カトリックの教会法ではそういう世俗の歴史解釈に関する個人的信念って正面切っては取り扱わないのじゃないだろうか(それ全然神学の問題じゃないしね)。また antonian さんのブログエントリ(とコメント欄)のやりとりによると、破門以外の教会行政的処分(聖職停止とか)はそのまま、という話もあるので、実際には教会内で飼い殺しっぽい感じもしなくはない。

とはいえ、破門撤回といえば、我々のような縁なき衆生が聞くのは「ガリレオ裁判の名誉撤回」とか「ジロラモ・サヴォナローラの異端宣告撤回」*1とか、そういう顕彰目的のものが多いんで、なにかある種の身振りを見る人がいたとしても、そう不思議ではないよね。ローマの司教もそこまで空気読めない人だとも思えないのだが(それに有能な下僚もいることだし)……ていうかあなたは若い頃にヒトラー・ユーゲントに入っていたとかキナ臭い話題には事欠かないんだから、少しくらい政治家として自重してもいいんじゃないのと余計なお世話で思う一方、ラッツィといえば自分をレーゲンスブルク大学神学部に呼んでくれたハンス・キュンクに対し、のちにヴァティカン教理省の偉い人になったときにカトリック的でないからといって教職資格停止命令を出した伝説的なKYだから、己が信念を貫くにはそのくらいのこと屁でもないのかな、とも思う。ラッツィのラは辣腕のラ。

深読みする人なら、ここでイスラエルへのメッセージを読み込んだりするのかもしれないけど、何にせよまだ情報が収集できてないので、しばらく Osservatore Romanoのサイトなどをうろうろと様子見するつもりでいる。おや、ちょうど1月28日付けでホロコーストについてのメッセージがありますね(国連のホロコースト記念日関連かな)。そんで、それによると正教会モスクワ総主教にはキリル府主教が選出されたそうです……("La Shoah monito contro l'oblio e la negazione")。
2009-02-06 追記:この新聞は日刊なので、現在の内容は違っている。どうもアーカイブや permlink はない模様……。

12:35 追記:
法王庁の闇の奥の抜け穴、あるいはリチャード・ウィリアムソン司教の破門撤回 - HODGE'S PARROTに、欧米各紙の報道が紹介されていて参考になった。ピオ10世会の director (会長?)は教皇にこの件で謝りにいったそうである(New York Times などで報道)。問題の発言は団体の考えを反映していないというお決まりの声明もあったが、声明1本くらいではおさまりそうにない雰囲気を感じる。

上で紹介した28日の教皇のメッセージは「ホロコーストは忘却も否定もされるべきではない」(原文はイタリア語)で、一部では関係修復のための身振りと受け止められているようだが、そのような間接的な表現ではユダヤ教関係者の怒りは収まりそうにない(Pope Voices Support for Jews, Rejects Holocaust Denial)。Rabbis may halt Vatican talks over Holocaust-denying priest | World news | The Guardianによれば、イスラエルユダヤ教指導部から公式に謝罪の要求があったそうだ。またエリー・ウィーゼルは件の聖職者の発言を「反ユダヤ主義のもっとも粗野な側面」に認知を与えたとこきおろしたという。論壇での事件は何にせよ有名人が出てくるとますますアテンションが上がるから、もうしばらくはこの話題は続きそうな予感がする。

追記:2009-02-18 この「撤回」というのは強すぎる表現でメディアの誤解であることがあとでオッセルバトール・ロマーノの記事から分かった。教皇庁内の処分としては「破門解除」とするのが正確である。何が違うのかというと、撤回は20年前に遡って破門がなかったこととすること、解除は20年間の破門を前提として現在において信徒としての身分を回復することと理解している。その意味ではこの記事のタイトルなどは不正確であり、訂正も一時期は考えたが、社会的に問題になっているのはその二つの教会内処分の違いではなく、いま現在身分回復がなされることであり、教会外のわれわれにとってその違いはあまり意味をもたないだろうこと、かつこの記事の時点ではそのように報道されていたという事情を鑑み、本エントリにおいては語句の訂正を行わないこととした。