シャドウイングの始め方

読み・聴き・話す

昨日はてなブックマークホッテントリを見ていたら、英語に関する質問があった。

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その一連のやりとりのなかで、質問者がこんな発言をしておられた。

リーディング力が上がれば、リスニング力、スピーキング力は
あとから付いてくるものなのでしょうか?

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然りであり否である、と私は考える。

然りというのは、総合的な英語力の根底には、どのような形であれ英語の文を処理し理解する能力というのがある。文法といっているものがそれだ。具体的には統語・語彙・語用の三つの能力からなる。それはどのような仕方であれ英語に触れていれば、少しずつは向上していく。だから文章を読む訓練で見につけた文法力は、聴取や口頭での発話にも、根底にある能力として働いている。よく「学校英語をきちんとやった人には、潜在的な会話の能力がある」というのも、同じ発想だろう。

一方で、文字を解した読み書きの能力と、聴覚を解しまた口と咽喉を用いた聴きまた発話する能力では、使うところが若干違っている。明治の頃、英語を読む人たちはかなりめちゃくちゃな発音で英語を音読していたと聞いたことがある。実際に英語を耳で聞き、また口で発話してはじめて耳で聞きまた口で話すことができるようになる。だから、リーディングの訓練だけで、リスニング力、スピーキング力が身につくわけではない。ある程度はそれ専門の訓練が必要である。

聴く能力と話す能力の両方を訓練する方法のひとつが、「シャドウイング」shadowing である。きょうはそのやり方を紹介する。

シャドウイングの始め方

シャドウイングは、対象とする言語の聴覚資料を再生し、そのあとについていま聴いた文を何もみずに口に出して繰り返す訓練法である。影のようにぴたっと付いていくので、シャドウイングという。もっとも聴いたあと少し遅れて繰り返すので、実際には少しのタイムラグが生じる。その意味でちょっとした記憶力の訓練にもなる。

まず必要なものは、1.再生機(CDプレイヤー、VTR、PCなど)と2.ヘッドフォンだ。再生機は最近はどれもデジタル化されているので、頭だしがとても楽で嬉しい。自分が使いやすいものでよい。私は YouTube を使ったり、iTunesPodCast を再生したりしている。たまに WinAmp を用いる(後述)。ヘッドフォンは自分の声で音声教材をかき消さないために必要になる。

外国語のシャドウイングのばあい、スクリプト(台本)のあるものをお勧めする。PodCast で配信されるニュースや WWW 上のニュースなどは、音声とテキストが両方用意されているものが多い。下調べやチェックには、テキストがあるほうがずっと便利だ。シャドウイングをはじまる前に、分からない単語などは辞書で調べておく。

シャドウイング教材を選ぶ3つの原則

何でもいい。ということはない。シャドウイングに使う教材を選ぶにあたり、絶対に守ってほしい原則が3つある。

  1. 長すぎない
  2. 読んで完璧に分かる
  3. 聴いて8割分かる

1. 長さについて。何度も繰り返して訓練するのが、シャドウイングでは効果的である。なので、繰り返すことを前提に短いものを選ぶのがよい。とりわけ最初のうちは。20分の演説を1週間に1回シャドウイングするよりは、5分のニュースを毎日シャドウイングするほうが、ずっと効果的である(合計では、一週間あたりの練習時間は後者のほうが長いことにもご注意)。

2. 読んで完璧に分かること。スクリプトのある教材をお勧めする理由の1つはここにある。文章に直したものをみて、完全に理解できないなら、その教材はあなたには荷が重過ぎる。初見で8割くらいは分かるものが望ましい。もちろん、分からなかった部分は、シャドウイングを始める前に、辞書を引いて、語義と発音をきちんと調べること。1度か2度、全体を通して朗読してみるのも口馴らしによい。いっぽう、辞書なしでテキストの8割分からないなら、もっと簡単なものを探すこと。

なお、辞書の選び方については英語の辞書の憂鬱 - 鰤端末鉄野菜 Brittys Wakeブックマークレットによるオンライン辞書の検索についてはロングマン現代英英辞典のブックマークレットを作っている方がいた(追記アリ - 鰤端末鉄野菜 Brittys Wakeで以前書いた。ご参考にされたい。

3. 聴いて8割分かること。文字では完璧に内容が理解できるようになったものを、次に耳で聴いて確認しよう。このときはスクリプトを見ながらでよい。スクリプトを見ながら聴いても、まったく内容を理解できないとしたら、その教材はやはりいまのあなたには向いていない。しかし、ここで諦める必要はない。文字で書いたバージョンでは理解できたことを忘れないようにしよう。ただ少し攻略に手を掛ける必要があるということだ。理解できた人は先へ進んでシャドウイングをはじめてよい。

読んだら分かるが聴いても分からない文章を攻略する3つの方法

文字を読んだら分かるが耳では理解できない文章に対し、ここで出来ることは3つある。

  1. 耳を馴らす
  2. 速度を落とす
  3. 音読で口馴らしする

1. 耳を馴らす。何度か繰り返し聴くこと。ながら聞きでよいので、何度か繰り返し聴いてみよう。飽きてきた時点で、スクリプトを見ながら聴くように切り替える。耳が馴れてかなり聴けるようになっているはずだ。

2. 速度を落とす。速くてついていけない場合に特に有効である。デジタルプレイヤーには、音声の再生速度を変える機能のついたものがある、それを使う。わたしは WinAmp を使っている。iTunes にもこの機能があるとプレイリストが統一できてうれしいのだが、残念ながらその機能はないようだ。

3. 音読で口馴らしする。つまりテキストを朗読する。朗読でつっかえるものを、文章をみずに流暢に発音できるはずはない。自分が云い間違い易いところ(長い単語など)は、特別に取り出して何度か練習しておくとよい。

シャドウイング教材を探すには

ここまでは言語に関係なく話をすすめてきたが、以下はもっとも需要があるだろう英語について書く。

英語の音声教材はいまや色々なサイトにあるので、好きなコンテンツを使うのがよろしかろう。興味のない文章を何度も聴くのはかなり苦痛な作業なので、自分の興味をもてる内容を選ぶことをお勧めする。映画の1シーンというのは、その点わりとお勧めである。ただスラングのあまりないものがスピーキングの訓練としてはお勧めかなあ…… Star Trek シリーズはその点わりあいに上品な米語なので安心して使える。ただし48分は長いので、シーンを取り出して使うのがよろしかろう。

とくに決まった好みがない方には以下のサイトをお勧めする。すべてスクリプトつきの音声コンテンツが見つかるサイトである。

中級者向け:

上級者向け:

初級者向けがないのは、シャドウイングは初級者向けの訓練ではないからだ。シャドウイングはもともと同時通訳のための訓練法である。上級者向けなのだ。具体的には、中級者向けで紹介した VOA の Special English あるいはウィキペディア簡単な英語版 (http://simple.wikipedia.org) が辞書なしでほぼ8割は理解できるくらいの英語力がある方に、お勧めしたい。1500語というのは高校3年生程度の英語力である。そこにまだ達していない方は、短文を朗読ないしリピーティングする訓練をしたほうがよろしかろうと考える。逆にこれらのサイトの英文をみて「かんたんだ!」と思った方は、相応の伸びしろがある。シャドウイングで英語力をさらに伸ばし、自信をつけてほしい。

お互いにがんばりましょう。