乾酪週間
インフルエンザというわけではないのですが、先週の半ばからなんだか床を離れられずにずるずると十日ほど寝たり起きたりしていました。みなさまはいかがですか。わたくしはおかげさまで熱も下がり咽喉の痛みも取れ、これならもう大丈夫かなという感じ*1。
寝たり起きたりで何が困るといって、買い物にいけない。いや買い物自体は週に一度で済ませているのですが、寝込む前、いつもの買い物日に所用があって、じゃあ次の特売日*2にと思っていたらそこでひっくり返って買い物に出られなくなった。まあ料理が出来る状態でもなかったので、一部の生鮮食料品が足りぐるしくなったくらいで済み、災害備蓄を少し消費したくらいで大きな実害はなかったのですけど、一日ほど家にミルクのない状態が出来て、これはちょっと弱った。悩んだ末にコンデンスミルクを代用に使ってみましたが*3、コンデンスミルクで飲む紅茶はさすがに甘すぎると思いました。
カトリックの人たちは水曜日から四旬節に入ったそうですが、正教会の復活祭は今年は西と一週ずれていて、なので大斎(おおものいみ)と呼ぶ東の四旬節は来週の月曜日から始まります。これは古来は西でも月曜日からであったものを、西のほうでは断食期間をきっちり40日に守りたいという欲求があって、それで現在のように水曜日からになったそうです。面白いことに、西方に最初にこの四旬節の断食を伝えた(とされる)ミラノのアンブロシウス*4の伝統がミラノには生きているようで、というのはミラノでは四旬節はいまでも月曜日からだと『カトリック百科事典』"Lent"(四旬節)の項に書いてあるのだけど、この「いま」てのはいつのことなんだろう、1910年出版の本の電子化テキストだから、現在もそうなのかは実際には分かりません。まあミラノには他にもアンブロシウス典礼とか、古いものが色々残ってはいるらしいですが。
西方だと四旬節の前は謝肉祭(カーニバル、ファッスング)と呼んで、いろいろに面白く騒ぐそうですが、謝肉祭というのは通常の断食日をこのときは免じることの意訳で――と思ったけどカーニバルは carni vale (肉に、さようなら)が語源という説もあって、その訳かもしれませんね、いずれにせよ明治の人はつくづくうまく訳したものだなと思います。西方では、と書いたのは、これはゲルマンの古俗と西方教会の習慣が融合したので、東方にはそのままの形では発生しなかった民俗だからです。もっとも異教の風習とキリスト教が結びつくことはスラヴの地にも起こって、ロシア語ではマースレニツァマーレニッツァ(クレープ祭、とでもいうのだろうか)と呼んでいます。
東方では大斎の前に「準備週間」があって、放蕩息子の話など読んだりされるのですが、食の上では普段の節制が免除されます。断食が一切禁止される週が二週続いて、おもしろいのはこれはスラヴではとくに祭であるようにはみえません。そのあと、肉が禁止されて、「乾酪週間」という、普段は断食日である水・金でも卵や乳製品を採ってよい週があります。マースレニツァマーレニッツァはこの週のお祭りで、ロシアでは毎日クレープを焼いて食べます。友達を呼んだり貧者にほどこしたりもするそうです。場所によっては市が立って、屋台が出て、クレープを配るんだそうです。案山子のような大きな人形を作って、最終日にはそれを燃やすとか。ストラヴィンスキーをなんとなく思い出します。人形を燃やすって、古代の人身供儀の名残を少し感じるよね。
今年のマースレニツァマーレニッツァは今週に当たります。わたくしは毎日クレープ焼くほどクレープ大好きでもなく根性もないので*5、普段は最終日である日曜日の午後に残っていた冷蔵庫の卵を全部使ってパンケーキを焼くのですが(そうして熱々のところをたっぷりバタを塗っていただく)、今年は買い物に出られるようになったのが水曜日ということもあって、卵を買い足すのはやめにしました。*6。ヨーグルトとクリームチーズはまだたっぷりあるので、ヨーグルト入りのパンケーキを今年はやいてみようかなと思ってます。
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