ウィキメディアと翻訳・落穂ひろい

昨年11月に東京のウィキメディア・カンファレンス・ジャパン2009で「ウィキメディアにおける多言語化と翻訳」と題して発表したのですが、はてな匿名ダイアリーでコメントしてくださっていた方がいたので、お返事というわけでもないがエントリをあげてみる。

やや長いが言及していただいた全文をあげます。

ウィキメディアと多言語

http://www.wcj2009.info/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%A0:E-2b

発表者はボランティア翻訳者のとりまとめなどをしているウィキメディアン。

translatewikiとかmetaでの翻訳者の数や活動などの報告。

アクティブな翻訳者は各言語ごとに数人程度だとか、

metaのtranscomでは、主だった翻訳者とはスムーズに連絡が取り合えるようにしてるとか。

日本語版だとウィキペディアの版として残らない会議はちょっと……

みたいな雰囲気があるけど、metaはそうでもないのか。

http://anond.hatelabo.jp/20091123104224

「(引用者補:ウィキペディア)日本語版だとウィキペディアの版として残らない会議はちょっと……/みたいな雰囲気があるけど、metaはそうでもないのか。」ウィキペディア日本語版でもそれは一部のことなんじゃないでしょうか。公開に適さない話題というのはあって、ウィキペディア日本語版関連でも管理者メーリングリスト(ログ非公開)とかチェックユーザーのIRCチャンネル(参加には招待が必要です)とか議論の内容に応じて公開しないほうがよい話題を扱う非公開チャネルで物事が決まっていくということはありますよね、という話ではたぶん実はなくって。

まず私が関係している「翻訳者のとりまとめ」とウィキペディアのような編集コミュニティの活動は若干性格が異なるのだと思います。わたしらTranscom(正式には Translation subcommittee of Wikimedia Communications Committee ウィキメディア広報委員会翻訳部会)というのは財団広報の手伝いをする実務的なワーキンググループです。それ自体がひとつのコミュニティで自治しているというようなありかたをしていません。そもそも広報委員会の原始メンバーは理事会決議で任命されたもので、コミュニティの中の選挙とか推薦とかで決まっていない。後から加わったメンバーも基本は委員会内で選考し任命されています。いっぽう編集コミュニティは広範な自治を行っており、管理者選挙等に財団から介入があったりはしないのはご存知のとおりです。

財団広報という活動の性格上、Transcomが年間通じて何かをするしないということは財団の事情で決まってきます。部会内での合意形成というのは、それを受けた上で、大枠が決まったなかでの仕事の割り振りをするものです。実際の作業をどういう順序で進める、誰がどれをやるかを分担するという極めて実務的なレベルのもので、そこで必要なのは議論というよりは調整ですね。関係者全員が話の流れを追えていればいいので、メディアをどこと限定する必要がない。ウィキを使う場合もあるが、メーリングリストでもいいしIRCでもいい。そのときやる仕事の質と量と締め切りとメンバーの状況で最適のコミュニティチャネルを選べばよい。これはウィキ編集コミュニティとの違いだろうと思います。ウィキ上のコミュニティがウィキを基本の議論の場とする、というのは理解はできます*1

次にTranscomを離れてメタことメタウィキ http://meta.wikimedia.org 一般の話。メタそれ自体はひとつのウィキ編集コミュニティですので、さすがになんでもIRC等ウィキ外のチャネルで話が進んでいくわけではなく、投票系などはウィキの上で完結することが望ましいということになっています。ただコミュニティのチャンネルについての考え方は若干日本語版ウィキペディアとメタでは違うかもしれません。メタや他プロジェクトだとメーリングリストIRCもコミュニティの公式な一部だと考えられていますので、ウィキに何でも報告しないといけないとは考えられていないというのはあるでしょうね。

次に「metaのtranscom」というのは誤解なので、これはつっこみをいれておきます。Transcomは上に書いたように財団広報委員会の一部門で、メタを含め、どこかのウィキの編集コミュニティの一部ではありません。なので「メタのTranscom」というものは存在しない。Transcomの解説ページはメタにおいてますし、Transcomが調整する実際の翻訳作業でもボランティアの方にはメタで作業していただくことが多いのですが、それはまた別の話です。

ご参考になれば幸いです。

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*1:ウィキで議論をするメリットのひとつは、まとめやアーカイヴ化のしやすさかと思います。IRCTwitterで話をすすめてしまうと、あとでまとめるのはちょっとテクがいります。逆に議論そのものにウィキは不向きなメディアかもしれません。編集競合が起こったりしますしね。