リアル・システムキッチン・実践篇
こんな地味な話題にブクマ10は集まるまいと思っていたら、半日で集まりやがりました。みなさまほんとうになに考えているのですかありがとうございます*1。最初は自分の買物メモ(GTD再導入に伴い、現在作成中)をそのまま載せようと思っていたのですが、仮にも(もと)所帯持ちの台所をそのまま書くと、若い方には使いづらいかなと思い、15年前の学生時代のバージョンをまず書いてみることにしました。
というわけで実践篇第一回?簡易バージョン。貧乏人向けともいう。ていうか15年前ですから物価も多少上がっているでしょうが、この頃わたし一月5万円で生活しておりました。ええもう、最低限のサバイバル装備ということで、どうぞひとつよろしくなのです。
前提とする装備
わたしが下宿していたときの装備をそのまま前提としている。電子レンジがなかったり、ガスコンロが1口だったりするのはそのためである。それだけの貧弱な設備でもひとは生きていけるのだということをこれを書いていて改めて認識した。
大型装備
小道具
- 鍋釜 各種(わたしの場合は鍋3つにフライパンがひとつ、アウトドア用の大小セットのコッヘルが2つ、シェラカップがひとつだった。炊飯器はなかったので、鍋で米を炊いていた。蓋が重いので、けっこうおいしく炊けた)
- ボール 大小1つづつ
- 1リットル入り魔法瓶
- プラスチック密閉容器・5個〜(スペースの許す限りあるだけあると便利)
- ジップロック・1箱分
- 大型の缶1つ(大型のプラスチック密閉容器で代用可)
- 古新聞 適量
- サランラップ1箱
- 輪ゴム1箱
- 開封済みワイン用の栓(ワインを常備する場合)・付属のポンプで空気抜きをして開封後もしばらく保存するのに用いる
- その他各種調理器具
買ってきた食品・自宅で加工した食品を保存する際に、上記装備が役に立つ。なお冷蔵庫は冷蔵庫のみのものを想定しているが、昨今だと冷凍冷蔵庫のほうがありふれているのかもしれない。可能ならば冷凍庫が別のものを使うのが良いと思う(わたしのは氷を作るくらいの機能しかなく、その点ではあまり実用性はなかった)。
調味料
極限まで食費を切り詰めることを前提としたこの配備計画のなかで、唯一この項のみは、資金のある限り潤沢に予算を配備することを心がけたい。出来ればデパートへいって、ブランド品の調味料を揃えるとよいだろう。その辺の食材をきちんとした調味料で料理するのと、高級食材をいい加減な調味料で料理するのとでは、前者のほうがずっとまっとうな皿をつくることができる。
たとえば、醤油は伝統的な作り方で造った大豆100%のもの、酢は合成ではなく醸造酢、酒は「アルコール調味料」とかいう謎の物体ではなく日本酒を揃える、などである。
必揃のもの
- 塩(1kg入り、袋で)
- 三温糖(1kg入り、袋で)
- 黒砂糖(500gほど?)
- 酒(1リットルの紙パックのもの、または750ml瓶)/日本酒かワインか、財政的に余裕があれば両方
- 米酢(1リットル)
- 薄口醤油(1リットル)
- 濃口醤油(1リットル)
- 赤みそ(1kg入り、パックで、邪道かもしれないが出汁入りみそは便利だ)
- 胡麻油(最低でも750mlの瓶で買う)
- オリーヴ油(最低でも750mlの瓶で買う)
- スキムミルク(500g入り、箱で)*4
備蓄を切らさないこと。切れる前に補充すること。半年か1年に一回、点検日を作って、補充をしておくとよい。上に挙げたものは、どれも日持ちのするものだから、可能であれば決まった日に補充ロットを購入しておくとよい――スペースと資金があれば。
あると嬉しいもの
- 薄力粉(1kg、袋で、開封後は出したものは密封容器に移し、早めに使い切る、残りは冷暗所に保存)
- インスタントのスープのもと(私はマギーブイヨンを愛用していました)
- バター
- はちみつ
- レモン汁(輸入食品屋にいくと、トルコ当たりで作っている濃縮還元100%のレモンジュースが1リットル入りのペットボトル瓶で売っている。後述するワインヴィネガーより安く、かつ使用範囲が広い)
- ワインヴィネガー
- ポン酢(ただしレモン汁がすでに買ってあるなら、醤油と出汁と米酢とレモン汁でそれらしきものを作って代用することが出来る。時間は掛かるが安くあがる)
- 白みそ
- 豆板醤
- オイスターソース
- 七味唐辛子(とくにそば・うどんをよく食べる人には)
- ナチュラル・チーズ:グラナ・パダーナ(もう一段贅沢するなら、パルミジャーノ・レッジャーノ)
乾物とスパイス
これはそろそろ、近所の大型チェーンストアのPB商品などで賄ってもよい。もちろん、費用にゆとりのある人は、ここでもまだ質を追求するのがよいだろう。
- かつお節(ビニールパックの花かつお。どうせ、かつお節を削る時間などないのだ)
- 昆布
- 干ししいたけ
- 炒り胡麻(摺り胡麻は劣化が早いので却下だ)
- 唐辛子
- 黒胡椒(ミル入りのが売っている、粒が必要なときは上をはずして取り出せばよい)
- カレー粉(輸入食品屋へ行くと、タイ産の大きな缶を安く売っている)
- 芥子(チューブでもよい。でも粉をそのつど掻いた方が辛くておいしい)
- わさび(さすがにこれはチューブのものを買う。本物は産地以外では外れが多いうえに高い)
- 高野豆腐
- 乾燥わかめ(増えるわかめちゃんなども可)
あると嬉しいもの
主食
これは週1〜月1あたりで補充することを前提にする。パンは冷凍するのが実はよいのだが*5、冷凍庫をもたないことを前提にしているので、週1買うことを前提にして考える。
- 米(1度に買うのは、5kgくらいにしておくのがよい。私は10kgの胚芽精米を買って、夏休みに学校の計算機センターに入り浸っていたら虫を湧かしたことがある……コクゾウムシを洗いとって毎晩米を炊くのは控えめに言っても修論を書いている最中にしたい作業ではない。とても惨めな気分になれること間違いなしであることを約束する)
- パン 1斤ほど しかし米のほうが安いので「あると嬉しいもの」にいれようか迷う
- 乾麺 パスタ・そうめん・そば等。あまりストイックすぎるのは精神の健康のためにもよくない。人間だれでもライプニッツのように毎日仕出しだけを食べて生きられるものではないのである。なのでここで多様性をもたせてみる。多様性じゅうよう。
主菜系
要するにたんぱく質源。ここで前提を思い出してほしい。あなたは貧乏な学生(かポスドク)で食費には限界がある。つまり、肉を食べられるのは週に1度か2度という前提で本エントリのリストは出来上がっている。なので、以下のリストには肉それ自体は登場しない――それはあなたの常備食料リストにはない食品なのだ。手元にお金があって、かつ地元のスーパーで魚のアラや牛スジ肉やスペアリブが閉店間際半額になる(なぜそんなところにそんな時間にいるのかということはお互い追求しないで置こう。とりわけ、あなたの締め切りがもう1週間後に迫っているというような状況においては)、そういう稀な幸運に見舞われたときにだけ、購入するとよい。
- 卵(お好みなら殻の赤いのを有機農法な自然食品屋で買ってくるとよい。それくらいの贅沢はたまに自分に許したほうがよいと思う)
- 豆腐
- 厚揚げ
- 油揚げ
- 納豆(お嫌いなら無理にとはいいません)
- 高野豆腐(乾物の項で既出だが、これも主菜である)
- 乾燥豆(いんげん、大正金時など)
- ちりめんじゃこ
豆腐・厚揚げ・油揚げなどは足が速いので、素材としては、買ってから長くても3日で使いたい。
厚揚げはたっぷりに切って、肉のかわりにカレーなどに入れて使うほか、黒砂糖としょうゆとしょうがで煮付けておくとおいしい常備菜になる。これは冷蔵庫で1週間ほどもつ。
油揚げは、あらかじめ切りそろえたのを出汁で薄味に煮込んでおく。煮るときに梅干の種を入れるのがコツで、こうすると日持ちがして冷蔵庫で1週間ほどもつ。そのまま焼いて大根おろしで食べるのもよいし、青菜と炊いたり、味噌汁に入れてもよい。
豆は一晩戻して中火で煮たあと(朝するのがよい)、魔法瓶に移して夕方までおいておくとやわらかく煮える。魔法瓶をバスタオルかなにかで包んでおくとなおよい。そのあと砂糖で甘く和風に煮るなり、イタリア風に玉葱の微塵切りとオリーヴオイルとレモンであえて刻んだにんにくを効かせた冷たいサラダにするなり、あるいは他の根菜類と煮てミネストローネにするなり、好きに使うとよい。
全体に、主菜系の常備菜があると献立を考えるのはかなり楽になる――添えの野菜の皿をなにか按配すれば済む。余裕のあるときに、食事の支度のついでに少しづつ作業しておくと理想的だ。
あなたが病的に肉なしでは生きていけないというなら、よかろう、毎週一度の買物の際に、挽肉を購入物品にいれてもよい。ただし挽肉は足が速いのですぐに調理する必要がある。キーマカレーや肉みそなどの多少保存の効く料理に使うのがよいだろう。かくいう私も、学生時代はレンコンと豆腐と挽肉の炒め物をよく作って、そぼろ弁当の具にしていた。
ちりめんじゃこ自体は主菜となることはないだろうが、たんぱく質系ということでここにいれておいた。街に出た際にデパ地下などでセールしているのを買っておくとよい。ご飯と食べる他、青菜といためたり、卵焼きに入れたりして、使うと目先が変わる。
缶詰? そんなものは親に送って貰うか帰省のときに奪ってくるものだ。加工食品は加工と保存性の向上の分だけ費用が高くなる――たいていの場合には。例外は賞味期限間近のものをセールで買うばあいで、そうして覚えておくとよいことがひとつ、賞味期限を半年や1年越えたところで、缶詰の質は大して変わらない。だがわたしはここで何も推奨していない。ある食品がまだ供用にふさわしいかの判断は、あなた自身で行ってください。
追記:肉は購入リストに載せないといったが、ひとつだけ例外がある。あなたが女性なら、月に一度、肉屋にいく日を作るべきである。買うのはレバーだ。1食分、100グラム。ニラやニンニクなどとあわせたメニューにするのがよい、らしい。内臓系は傷みが早いのでその日か遅くとも翌日の昼までに料理するのがよい。なお、それだけでは足りなそうなら、この週は例外として毎日夕方に肉屋へ行き、新鮮なレバーを買いましょう。学生時代の私は、300グラムほどレバーを買い、塩漬けにしたあと香味野菜と一緒に煮て、それをスライスしたのとレタスを全粒粉パンにはさんだサンドイッチを作りその週の昼のお弁当にしていたが、もちろんM2になった時点でそんな悠長なことをしている暇はなくなるのであった。
野菜等
近所の八百屋かスーパーで週に一度買う。ただしあなたの近所にシャッター通りがあるなら、三時くらいにふらっと出かけてそこの八百屋で買ってみるのもいいだろう。とてもよろこばれる。会話も出来る――かもしれない。少なくとも気分転換になる。家に垂れ込めてどこかのOPACを呪っているよりは、はるかに生産的だ。ただしそうした個人商店の品は高いことが多く、また残念ながら質は保証の限りではない。
冷蔵庫に入れない野菜
これはどれも日持ちする。古新聞で包む等の適切な処理を行い、冷暗所に保存する。長ねぎと大根は冷蔵庫にいれてもよい(ただし新聞紙に包むこと)。ほかのものは冷蔵庫に入れてはいけない。かえって霜で悪くなる。減り方にもよるが、週に1度残量を確認し、買い足すこと。
- たまねぎ
- にんじん
- じゃがいも
- 長ねぎ
- にんにく
- しょうが
- 大根
すべてを揃えること。備蓄を切らさないこと。最低限これらが揃っていれば、いままでに述べた調味料等と組み合わせ、和洋中どれでも作り出すことが出来る。
冷蔵庫に入れる野菜
これらは冷蔵庫に入れるほうがよい。入れ忘れるとぐだぐだになる。どれも旬の露地物を買うのをお勧めする。そのほうが安いし、通年で皿にバラエティを持たせることが出来る。特にどれを指定することはしないが、常時3、4種があることが望ましい。キャベツ/白菜などの癖のない菜物は重宝する。
例として、
- キャベツ(冬なら白菜)
- ピーマン
- ブロッコリー
- トマト
- なす
- きのこ各種
- 青菜(小松菜、ホウレン草、水菜、春菊……)
などなど。ビニール袋にいれたり新聞紙で包んだりして、直接冷蔵庫の冷気が当たらないようにすると、もちがよくなる。また調理した上で密封容器にいれておく(たとえばブロッコリーなどは買ってきてすぐに塩水で固ゆでにする)と、もちがよくなる。もやしなどは足が速いので、すぐに食べないならナムルなどにしておくことをお勧めする。この手の常備菜レシピは、クックパッドなどに詳しいので、本エントリでは割愛する。
主菜系でも述べたが、買ってきたあと一部の食材に手を加えて常備菜とすることで、食品の足の速さに対策をしている。その手間を惜しむ場合は、買出しを週二回にして、野菜とたんぱく質源は週の中日にも買うことで対処されたい。
配送
以上、調味料を除けば、特に買う場所を定めていない。週一補充分は、自分の便利のよい場所で買うのがよい。ただし、生協などで配送サービスのあるところでは、それを利用するのも手である。とくに車のない貧乏学生にとっては、米など重いものを買ったときの配送サービスは便利である。
在庫管理
買物から帰って、買ったものを所定の場所にしまいましたね。お疲れさま! しかしまだ仕事が残っている。これをしなければ完璧なロジスティックは実現しない。
チラシの裏(いやまあ更の紙でもいいけど)に、どこに何が入っているのかすべて書き出しなさい。いま買ってきたものは、いれた場所(戸棚とか冷蔵庫とか)ごとに新たに書き加える。使い切ったら線を引き、最後に使ったときに残量が怪しげであれば、分かるようにマーキングしておく。1枚にまとめて、冷蔵庫に貼っておくとよいだろう。買物に出るときには、この紙をチェックすることで、買物リストを簡便に作成することができる。GTDをしている人は、週次レビューに組み込むとよいだろう。定期的に――理想的には買物から帰るたびに、この紙は更新すること。これで買物に出る前にいちいち扉を開けたてする必要がなくなる。
さあ、これであなたのキッチンはシステムとして確立した。あとは、チェック→補充→調理のサイクルを週1ペースでまわしていけばよい。おめでとう!
むすびに
以上、リアル・システムキッチン・実践篇第一回?をお届けしました。なお、いままでに「鰤端末鉄野菜」でご紹介したレシピは「モモ風餃子」(これは挽肉と餃子の皮を使う)や「砂肝スープ」などの肉料理を除いて、基本的にはすべて上の材料内で作ることができる、はずです*6。
ストイックに暮らすこと自体は、リアル・システムキッチンの目的ではありません。省力化しつつバランスの取れた食卓を実現することが最大の目的です。なので、みなさまご自由に、上記に加え、買物の際に目に付いたファンシーな食材を買い足して、いろいろな料理を作るのがいいんじゃないかと思います。上はあくまでも骨格――最低限これは揃えろという推奨リスト――なので、自分がどうしても手放せない食材のある方は、随時付け足していってください。ただ、わたしは上のリスト+αを週一回補充することで、この15年間自分の台所を回しています。というお話、です。
わたし自身の台所には、現在はもう少し大きい冷蔵庫と電子レンジがあるので、それに任せて常備するものももうちょっと増えています。ですが基本システム構成はそう変わっていません――ということが記憶を辿って書いてみて分かりました。違いといえば、肉と乳製品がもうちょっと増えて、冷蔵冷凍系の常備菜が増えて、香辛料が若干増えたことくらいかな。というわけで、こちらはご希望があったときに、改めて書きたいと思います……。
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追記 2009-01-08 20:12
ここまで読んできて「だめだおらこったらむづかしいことできね」と絶望しかかっている方も、あるいはおられるかもしれない。そのような方は、id:atzyさんの「ど素人用 リアル・システムキッチン - Atzy->getLog()」をご参照されたい。エントリタイトルどおり、極めて初心者向けのシステムとなっている。電子レンジと冷凍冷蔵庫が登場する分、本エントリよりはちびっとブルジョア度の高い層がターゲットだが、初期投資にしておそらく数万円の違いであり、昨今では現実的な設定かとも思う。諸兄の健闘を祈る。