初心者による初心者のための言語学の本

なぜ私はこんなに親切なエントリを書くのか

いやそのネタはもうおいておいて*1、きょうは、以前にコメント欄で書くとお約束した、わたくしの独断と偏見でお送りする言語学の本のご紹介です。英語や個別言語を学習するだけじゃなくて、言語学の本も読んでねとそのエントリでは云ったので、まあそりゃちと何か紹介しろといわれるわな。ううむ。

ここでひとつお断りを。わたくしは人文系の大学を出てはいますが、言語学は素人です。ほんとうに素人です。そういう超初心者が、自分が読んでわかったような気がした本・これから読みたい本をご紹介する、きょうはそういうお気楽な趣向ということで、ご理解をお願い申し上げます。それから今回は国語学や英語学といった個別言語学の書籍はあえて外しました。まあ、たぶんid:terracaoさんとか id:dlit さんとか id:Dynagon さんとかが、それぞれ専門教育を受けた立場から、いろいろつっこんで遺漏を補ってくれると思うんだ。ぼくは信じてるよ。

初心者による初心者のための言語学の本

まず一冊目は、黒田龍之助『はじめての言語学』、講談社現代新書。書店でいくつかチェックしたなかでは、これが一番とっつきよさと内容と入手可能性のバランスが取れているように思います。

はじめての言語学 (講談社現代新書)

はじめての言語学 (講談社現代新書)

言語学が何をする学問なのかを平易に書いており、導入によいかと思います。新書ですので分量も多くありません。各章ごとに読書案内もあり、関心を深めていくにもよいかと思います。

二冊目。もう少しつっこんで言語学全体を眺めてみたい方には、西田龍雄編『言語学を学ぶ人のために』、世界思想社、1986年、はいかがでしょうか。だいぶ古い本です、書店でいまあるのかな。図書館にはあるでしょう。20年たってますから、その間の知見を取り入れたもっとよい入門書がありそうな気はしますが、わたしはこれで勉強しました、というわけで楽屋裏紹介を兼ねてご案内。わたしが学生の頃は、諸般の事情で、関西の大学では学部の教養課程や専門の基礎講義で教科書に使われることが多かったようです(最近の事情はよく知らない)。この本も巻末には読書案内があり、言語学の主要な名著が、それぞれ1ページほどの要旨とともに紹介されています。

三冊目は記号論の本。

記号論への招待 (岩波新書)

記号論への招待 (岩波新書)

そろそろ上の二冊の読書案内を参考に、お好みで選んで下さっていいように思いますが、わたくしの独断と偏見ぶりがもう少し分かるようなものをいれてみました。1984年とこれも古い本です。この当時わたしはいわゆるポスト構造主義に嵌っていく過程にいて、それで最初期に読んだのがこの本です。記号論に興味を持ち、また勉強していく最初の段階で出会った、自分にとって大事な懐かしい本です。記号論構造主義関係の入門書では、橋爪大三郎の『はじめての構造主義 (講談社現代新書)』もわりと分かりやすく書けていたように思いますが、後者は私が大学に入ってから出たのでした。

最後は、まだ未見なのですが(図書館にリクエスト中)、楽しみにしている本をひとつ。

外国語学習の科学―第二言語習得論とは何か (岩波新書)

外国語学習の科学―第二言語習得論とは何か (岩波新書)

第二言語(Second language)とは、母語のあとで習得される言語すべてを意味します*2。L2 とも略記します*3第二言語を身につけることはほぼ慣例的に「習得」acquisition というようです。「外国語を習う」というのは、現代の言語学ではもうほとんどいわないだろうと思います。

第二言語の習得過程は、母語とは完全に同じではないことが各種の研究から分かってきていますが、この分野はまだまだ仮説が一杯で(もっとも有名なもののひとつは「臨界期仮説」でしょうか)、わからないことが多いようです。そうはいっても、一般に、自分が何をやっているのか分かっているほうが、学習や技能の習得には役に立つように思います。英語でも何でも、母語以外の言語を学習しようという方には、第二言語習得に関する理論にも関心をもつようお勧めします。

関連エントリ:

*1:しかしニーチェの後期というのは煽り濃度がほんとに高いねえ。

*2:外国語というのとは少し違う。外国語は民族や国家という概念と縺れ合っていますが、第二言語というのは母語との関係で決まるもので、個々の話者の事情によって異なります。

*3:わたしのブックマークのタグ "L2" はここから来ています。あれは正確には L2A - second language acquisition) としたほうがいいような気も時々するんだけど、短いほうが楽なのでそのままにしています。